№67 エジプト:シーシー大統領のトルコ訪問、二国間関係の改善へ
2024年9月3日、シーシー大統領は2014年の大統領に就任して以降、初めてトルコを訪問した。エルドアン大統領との首脳会談では、エジプト・トルコ間の自由貿易協定の適用範囲を拡大し、今後5年間で両国間の貿易額を150億ドルに増加させることの重要性を強調した。また、ガザやリビア、シリア、スーダン、ソマリアといった地域情勢について協議し、情勢の安定化に協力していく点を確認した。
会談後、両大統領の立ち合いの下、産業やプロジェクト開発、高等教育、鉄道、民間航空、情報、通信技術、保健、金融、経済、エネルギーなどの分野での協力に関する、17の協定及び覚書が結ばれた。
評価
シーシー大統領は過去、ムスリム同胞団対策や東地中海のガス田開発などをめぐってトルコと対立してきたが、2021年以降に関係改善に向けて動きだした。2023年7月に両国が10年振りに相互に大使を任命し、今年2月にはエルドアン大統領によるエジプト訪問が実現した。そして今回のシーシー大統領のトルコ訪問は、二国間関係の改善を印象付ける出来事となった。
エジプトがトルコとの関係修復に努める背景には、経済的動機があると考えられる。深刻な経済問題に直面しているエジプトは、トルコとの関係正常化が経済協力の拡大につながることを期待している。特にエネルギー協力では、エジプトがトルコへの液化天然ガス(LNG)の輸出の拡大を試みている。エジプトは現在、国内のガス不足を理由にLNG輸出活動に課題を抱えているが、ガス需要が多いトルコで将来的に販路を広げられれば、ガス収入の増加を見込める。
経済面に加えて、エジプトは東部アフリカ地域情勢でもトルコとの連携を模索している。エジプトはこの数年、エチオピアでのダム建設に伴うナイル川の水資源をめぐり、エチオピアと対立している。エジプトは、同じくエチオピアとの関係が悪化したソマリアと協力することで、エチオピアに対する地域的包囲網の形成を試みている。
トルコもテロ対策支援としてソマリアに派兵するなど、ソマリア政府との関係が良好な国である。トルコは現在、エチオピア・ソマリア関係の修復に向けて仲介に乗り出している。一方、この先、エチオピアがソマリアの主権を侵害するような行動に踏み切った場合、トルコはソマリア側を支持する立場をとるだろう。こうした状況下、エジプトが対エチオピアでトルコと共闘することとなれば、ダム運用の阻止に向け、エチオピアのアビー政権に対して更なる圧力をかけることができるだろう。
【参考】
「エジプト:ソマリアとの軍事協力協定、対エチオピアで共闘」『中東トピックス』T24-05。※会員限定。
「トルコ:エルドアン大統領のエジプト公式訪問で雪解けの兆し」『中東かわら版』2023年度No.176。
「エジプト・トルコ:関係改善に向けて大使の任命」『中東かわら版』2023年度No.53。
(主任研究員 高橋 雅英)
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