№62 サウジアラビア・UAE:参画予定の米国LNG事業の認可取り消しに関する判決
- 2024湾岸・アラビア半島地域サウジアラビアアラブ首長国連邦
- 公開日:2024/08/08
2024年8月6日、米国コロンビア特別区巡回区控訴裁判所は、連邦エネルギー規制委員会(FERC)が2023年4月にテキサス州の3つの天然ガス事業に再付与した認可を取り決す判決を下した。3つの天然ガス事業のうち、リオグランデ液化天然ガス(LNG)輸出プロジェクトには、サウジアラビア及びUAEの国営石油会社が参画を予定している。今年5月にアブダビ国営石油会社(ADNOC)が、翌6月にサウジアラムコが、LNG供給に係る基本合意書を米ネクストディケード社とそれぞれ締結し、第4系列液化設備で生産されたLNGを20年間にわたって引き取る計画を進めていた。
今回の判決は、当該天然ガス事業が周辺地域と気候に悪影響を及ぼすとの原告の「シエラ・クラブ(※米国の代表的な環境保護団体)」側の主張を支持するものとなった。そして同控訴裁判所は、FERCが事業承認プロセスで最新の環境影響評価や炭素回収・貯留に関する情報を含めるべきだったと指摘した。
開発を手掛けるネクストディケード社は判決結果に同意しない意向を表明し、リオグランデLNG事業を継続する構えである。同プロジェクトでは、第1フェーズ(2027~29年)で3つの液化設備(年間液化能力は1620万トン)の建設、その後に第4及び第5系列液化設備の追加配備により、最終的なLNG年産能力は米国最大規模の2700万トンに達する見通しである。
評価
現在、サウジアラビアとUAEは米国LNG事業への参入に注力している。両国にとって米国のLNG事業に関与する利点として、LNG施設の低炭素化への取り組みを把握できることや、米国産LNGのトレーディングを通じて新たな収益源を確保できることが挙げられる。特にサウジアラムコはリオグランデLNG事業に続き、6月末にテキサス州・ポート・アーサーLNG事業の第2フェーズの権益25%を取得し、年間500万トンのLNGを引き取る旨の基本合意書を米センプラ・インフラストラクチャー社と結んだ。また報道によれば、米テルリアン社とも、ルイジアナ州のドリフトウッドLNG事業の権益取得について交渉している模様である。
こうした中、リオグランデLNG事業の認可取り消しに関する今次判決は、サウジアラビア・UAEの米国進出を遅らせる原因となるだろう。ネクストディケード社は8月5日に第4系列液化設備についての設計・調達・建設(EPC)契約を米ベクテル社と契約したばかりである。しかし判決により、FRECが再審理作業を余儀なくされることは、同社が今年後半に予定する第4系列液化設備の建設に係る最終投資決定(FID)にも悪影響を及ぼす恐れがある。FIDの実施が遅れた場合、着工時期も当初より大幅に後ろ倒しとなる。環境規制と米国LNG産業の関係では、バイデン政権が今年1月に環境負荷の検証作業を理由に、米国の自由貿易協定(FTA)非締結国に対するLNG新規輸出認可を一時停止した。こうした環境審査の厳格化は、サウジアラビアやUAEの米国市場への投資意欲の低下につながるだろう。
【参考】
「サウジアラビア:米国LNG事業への投資に向けた動き」『中東かわら版』No.35。
「UAE:米国LNG事業への初参入」『中東かわら版』No.26。
(主任研究員 高橋 雅英)
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