中東かわら版

№61 パレスチナ:ハマースがヤフヤー・シンワールを政治局長に選出

 2024年8月6日、ハマースはイスラエルに暗殺された(7月31日)イスマーイール・ハニーヤの後任の政治局長に、ヤフヤー・シンワールを選出したと発表した。シンワール新局長は、1962年にガザ地区のハーン・ユーニス難民キャンプ出身で、ガザのイスラーム大学を卒業後1987年のハマース結成に参加した。イスラエルによって複数回逮捕されており、1988年にはハマースの治安機関や軍事部門の設立に関与した罪で終身刑4回と禁固33年の有罪判決を受けた。2011年の捕虜交換合意で釈放され、2012年にハマースの政治局員に当選、ハマースの軍事部門のカッサーム部隊の責任者となった。2015年には、アメリカが同人を「国際テロリスト」に指定している。イスラエルは、シンワール新局長を2023年10月7日の襲撃事件の首謀者とみなし、事件以後同人の殺害を目指している。

 ハマースの執行機関に相当する政治局は、同派の活動地のガザ地区、ヨルダン川西岸地区、獄中や在外各地の3分野から選出される、15~18人の局員からなると考えられている。また、ハマースには政治局と同様に活動分野ごとに選出されるシューラー評議会(議員は50人程度とされる)があり、シューラー評議会と様々な指導機関の合議により、シンワール新局長が選出された。

評価

 ハマース幹部のウサーマ・ハムダーンは、報道機関向けの談話で今般の決定はシューラー評議会と様々な指導機関の「合意」によるもので、ハマースの統一性を確認するとともに、ハマースが直面する危機を理解した上でのことだと述べた。ハマースの立場から見れば、シンワール新局長の選出は武装抵抗運動を維持するとのイスラエルに対するメッセージとしての意味がある。また、イスラエル側から見れば、PAの首相経験者で政治家・外交官として振る舞ってきたハニーヤ前局長に代わり、軍事部門の活動家のシンワール新局長が指導するハマースが相手となると、停戦や捕虜交換交渉が滞ることが予想される一方、ハマースの殲滅を志向する上では好都合だろう。いずれにせよ、ハマースはイスラエルからの攻撃や暗殺に脆弱な状況に置かれており、短期間のうちにシンワール新局長が死亡する可能性にも留意するすべきであろう。

(協力研究員 髙岡 豊)

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