中東かわら版

№58 パレスチナ:今後のハマースを率いるのは誰か?

 2024年7月31日、ハマースは同派のハニーヤ政治局長がテヘランにて「シオニストの航空攻撃で」暗殺されたと発表した。また、イスラエル軍は、7月にハーン・ユーヌス市で行った空爆で、カッサーム部隊のムハンマド・ダイフ司令官を殺害したことを公式に発表した(8月1日)。2023年10月7日以来、パレスチナ内外でハマースの幹部が着実に暗殺され、イスラエルが目指す「ハマースの殲滅」へと進みつつあるようにみえるが、8月1日付『シャルク・アウサト』(サウジ資本の汎アラブ紙)は、現在も活動中のハマースの著名幹部を以下の通り列挙した。

 

*ヤフヤー・シンワール:ガザ地区のハマースの代表者。現在もガザ地区の地下トンネル網に潜伏し、同地での軍事作戦を指揮したり、イスラエルとの間接交渉についての決定を下したりしていると考えられている。

*ハーリド・ミシュアル:2004年~2017年にハマースの政治局長を務め、ハニーヤ政治局長の後任として有力視される。1997年にヨルダンのアンマンでイスラエルによる暗殺未遂にあったことで著名。

*マルワーン・イーサー:カッサーム部隊幹部。イスラエルは3月に同人を暗殺したと発表しているが、ハマース側は未確認。

*ハリール・ハイヤ:最近のイスラエルとの間接交渉を監督した。テヘランでハニーヤ政治局長に同行していたが、暗殺当時建物に不在だった。2007年と2014年にイスラエル軍に住居を攻撃されている。

*マフムード・ザッハール:2023年10月7日以来公の場に現れておらず、消息不明。2003年、にイスラエルの暗殺未遂にあっている。

*ムハンマド・シャッバーナ(アブー・アナス・シャッバーナ):ガザ地区南部でカッサーム部隊を率いている。ラファフでのトンネル網構築を担った。

*ルーヒー・ムシュタハー:1980年代にイスラエルに情報を提供したパレスチナ人を懲罰する治安機関を設立した。ラファフの通過地点の再開問題を含む、エジプトの治安部門高官との連携を担当。

評価

 ハマースは、長年各地でイスラエルにより幹部が暗殺され、2004年には同派の最高指導者とされていたアフマド・ヤーシーン、その後継となったアブドゥルアジーズ・ランティーシーが短期間のうちに殺害されている。また、今般のハニーヤ政治局長の暗殺のように、イスラエルとの間の実力差は隔絶したものであり、ハマースはイスラエルによる暗殺工作に脆弱な状態にある。一方、同派には政治局やシューラー評議会などの局員・議員の人数や身許が明らかでない幹部機関が設置されており、ここから身許や役職を公開しないまま複数の幹部が役割を分担してパレスチナ内外での活動を運営することが考えられる。

 一方、2023年10月以来、ガザ地区やヨルダン川西岸地区はイスラエル軍による攻撃にさらされ続けており、ハマースにハニーヤ政治局長を後継する指導体制の構築のような重要事項を決定するゆとりがあるとは限らない。ハマースが活動を組織的に統制できなくなることは、イスラエルが目指す同派の殲滅に近づくことのようにも見えるが、捕虜の解放や停戦などについての交渉も決定もできない小集団が武装闘争・抵抗を続け、軍事作戦が収束の見通しが立たないまま長期化することにもつながりかねない。

(協力研究員 髙岡 豊)

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