№56 パレスチナ・イラン:ハマースのハニーヤ政治局長がテヘランで殺害
- 2024イラン湾岸・アラビア半島地域パレスチナ
- 公開日:2024/07/31
2024年7月31日未明、ハマースのハニーヤ政治局長が、イランの首都テヘランで殺害された。同政治局長は、ペゼシュキヤーン大統領の宣誓式(30日)参列のため同地を訪問していた。同式典において姿が確認されていたことから、ハニーヤ政治局長は式典後に滞在先で殺害されたものとみられる。警護員1名も死亡した模様である。革命防衛隊は同日付声明で、31日未明にハニーヤ政治局長がテヘラン市内で標的にされ死亡したと認めるとともに、真相究明中であり、結果がわかり次第公表すると発表した。また、ハマースは声明で、裏切者のシオニストによる攻撃の結果ハニーヤ政治局長が死亡したと認め、今次テロ攻撃に対して必ず報復が行われると発表した(31日付『タスニーム通信』)。キャナアーニー外務報道官は、ハニーヤ政治局長の血が無駄になることはないとの声明を発出した。現時点で、犯行声明は出されていない。
評価
注目すべき点の1つは、今次事案がイスラエル軍がベイルート郊外を攻撃した直後に発生したことである(詳細は『中東かわら版』No.54参照)。イスラエル軍は30日、ヒズブッラーがゴラン高原のサッカー場への攻撃(27日)を実行したと見做した上で、ヒズブッラー幹部の殺害に成功したと主張していた。その翌日にハマースのハニーヤ政治局長が殺害されたことになる。イスラエル・ヒズブッラー間で攻撃の応酬がなされる中での出来事であり、ガザ危機の余波が地域全体に拡大していることを示している。もう1つの注目点は、今次事案がイラン領内で発生したことである。現時点において、攻撃手法は明らかにされておらず、空爆によるものだったのか、別の手法による暗殺だったのかは不明である。ただ、イラン側の要人警護や防諜の不備が今次事案を招いたといえる。イランとしては面目を潰された形だ。攻撃自体を受けたのはハマースだが、イラン領内で起こった出来事であるため、イランとしてその点をどのように評価するのかが今後の展開を左右するだろう。ハーメネイー最高指導者が国家最高安全保障評議会を召集したことから、同会合での意思決定の結果、イランとして抑制的対応に終始するのか、あるいは軍事的報復に踏み切るのか否かが当面の注目点となる。仮に、ハマース、革命防衛隊、ヒズブッラー等が連携してイスラエルに報復すれば、その後の事態の展開は予期せぬものとなる。先行き不透明な情勢のため、在留邦人の安全管理面からはあらゆる事態に充分な備えを講じる必要がある。
(研究主幹 青木 健太)
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