№54 イスラエル・レバノン:イスラエル軍がベイルート郊外を攻撃
2024年7月30日夕刻、イスラエル軍はベイルート南郊のダーヒヤ地区を爆撃した。イスラエル軍は、攻撃はヒズブッラー幹部のフアード・シャクルを狙ったもので、同人の暗殺に成功したと発表した。シャクルは、1983年にベイルートで発生したアメリカの海兵隊に対する自爆攻撃に関与したとされる、ヒズブッラーの古参幹部である。一方、レバノンの保健省は、本稿執筆の時点で攻撃により3人(女性1、子供2)が死亡、74人が負傷し、行方不明者を捜索中と発表した。
攻撃に対し、シリア、イラン、ハマース、イエメンのアンサール・アッラー(蔑称:フーシー派など)が非難声明を発表している。また、ほぼ同時期イラクのバービル県北部の人民動員隊の施設がアメリカ軍に攻撃されたが、人民動員隊の一部は、ベイルートへの攻撃とイラクでの攻撃を「一体の陰謀」と認識して非難する声明を発信した。
評価
イスラエルは、今般の攻撃をゴラン高原被占領地のマジュダル・シャムスでのロケット弾着弾事件(7月27日)の報復の一環と位置付けている。今後、地上軍の侵攻やより大規模な空爆、更なる要人暗殺などが続くようならば、情勢のさらなる激化は避けられない。ここで焦点となるのは、ヒズブッラーを含む「抵抗の枢軸」を形成する諸派が今般の攻撃をどのように評価するかである。攻撃を非難する声明の一部には、「交戦規定からの逸脱」との表現がみられる。これは、「イスラエルがレバノンの民間人や社会資本を攻撃した場合、レバノンの抵抗運動(ヒズブッラー)はイスラエルの民間施設を攻撃する」という、1990年代半ば以来の暗黙の了解事項を指す。アンサール・アッラーやイラクなどの「イスラーム抵抗運動」は、この交戦規定が成立する際の当事者ではないが、2023年10月以来の紛争でおおむね交戦規定を逸脱しないように振る舞っている。イスラエルからの攻撃が続く場合や、ヒズブッラーが今般の攻撃を交戦規定からの逸脱とみなす場合、入植地の居住区画や、テルアビブ、ハイファの住宅地や社会資本に対する大規模な砲撃が反撃の選択肢となるだろう。
(協力研究員 髙岡 豊)
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