中東かわら版

№6 UAE:イスラエル軍の空爆による人道支援団体職員死亡への反応

 2024年4月2日、UAE外務省は、イスラエル軍によるガザ地区への空爆で食糧配給に携わるNGO、ワールド・セントラル・キッチン(WCK)の職員7名が死亡、他複数が負傷したことについて、イスラエルを強く非難する声明を発出した。

 3月以降、UAEは自国の資金提供によって、キプロス共和国のラルナカ港からガザ地区への食糧を中心とした救援物資の海上輸送に取り組んでいる。24日にはアブドッラー・ビン・ザーイド外相がキプロスのコンポス外相とアブダビで会談し、同活動の進捗・展開について協議したばかりであった。WCKはその取り組みにおける現地パートナーとして、ガザ地区北部のバイト・ハーヌーン、バイト・ラーヒヤー、ジャバーリーヤー、ガザ市等で毎日3000食を配給に携わってきた。

 なお冒頭の空爆を受けて、翌3日の一部報道では、UAEが当面キプロス経由でのガザ地区への食糧輸送を中止することを決定したと、匿名筋を情報源として伝えられたが、現時点でUAEからの公式な発表はない。

 

評価

 2023年10月以降のガザ戦争をめぐり、2020年にイスラエルと国交正常化したばかりのUAEは、明確な親パレスチナないし反イスラエルの姿勢をとるのが難しい。同じタイミングでイスラエルと国交正常化したバハレーンがイスラエルとの間で大使の召還を行った一方(大使の身の安全のため、というのが公式な理由)、UAEは特段の措置をとっていない。こうした状況下、ガザ地区への人道支援は、UAEがガザ地区に対して可能なコミットメント、また内外に向けた立場表明のための貴重な機会である。実際、キプロスからガザの食糧輸送をアマルティア回廊イニシアティブ(※アマルティアはギリシャ神話に登場する女神)と呼ぶなど、UAEはこの取り組みを誇ってきた。

 加えて言えば、食糧輸送の中継地となったキプロスはEU加盟国であり、UAEからすれば同国経由でのガザ地区支援は、西側諸国との協業という実績とも位置づけられる。米国拠点のNGOで、国際社会からの評価も高いWCKを現地パートナーとする点も同様だ。

 以上の背景を踏まえれば、イスラエルによるWCK職員への攻撃は、UAEからすれば自国のガザ戦争をめぐる対応を国際社会にアピールする舞台をつぶされたことになり、非難声明の発出は当然と言えよう。こうした事例が積み重なれば、イスラエルとの外交関係に関してUAE側が何らかの措置をとる可能性も当然高まってくる。

(研究主幹 高尾 賢一郎)

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