中東かわら版

№5 イスラエル・カタル:イスラエルによるアルジャジーラ放送局の活動規制

 2024年4月1日、イスラエル議会で、国家の安全を脅かしうる一部の外国報道機関の活動を規制する法案が可決されたことを受け、イスラエルのネタニヤフ首相は翌2日、X(旧Twitter)のアカウントで以下の通り発言した。

 

「アルジャジーラはイスラエルの安全を侵害し、10月7日の虐殺に積極的に加わり、イスラエル国防軍兵士に対する攻撃を扇動した。 我が国から、このハマースの角笛を排除する時が来た。今後、テロ専門チャンネルである(カタルの衛星放送局)アルジャジーラがイスラエルから放送することはない。 私は新しい法律に則って、直ちに同放送局の活動を停止させるつもりだ」

 

 一方のアルジャジーラは、上記の発言を「誹謗中傷」と、ネタニヤフ首相を「扇動者」と非難した。その上で、米国政府や米国拠点のジャーナリスト保護委員会(CPJ)による当該法案に対する懸念の声等を紹介するなどして、イスラエルの措置が「国際社会」の観点から見て誤りであることを間接的に訴えている。

 

評価

 カタルはハマースの数少ない支援国であり、イスラエルとは決して相容れない立場を維持してきた。アルジャジーラはそのカタル政府の外交方針を忠実に反映し、昨年10月7日以降のガザ戦争以降は連日、相当な労力をイスラエルの「国際犯罪」を伝えることに割いてきた。10月25日にパレスチナ人で同局のガザ局長のワーイル・ダフドゥードの家族がイスラエルの空爆によって死亡したことも、アルジャジーラとしてはガザ戦争をめぐるイスラエル非難を展開するモチベーションとなった。

 イスラエルは、ガザでの地上戦の展開と前後して、アルジャジーラをはじめとする現地ジャーナリストに退避を呼びかけてきた。これは彼らの安全のためというより、自軍兵士の攻撃を映され、インターネットで配信される事態を嫌ったためであろう。一般市民を誤射しようものなら、アルジャジーラ等がその映像を反イスラエルの宣伝映像に用いることは間違いないからである。このため、イスラエルによるアルジャジーラの規制は自然な流れであり、むしろ遅すぎたほどである。

 ネタニヤフ首相としては、かねてより2023年1月に発表された司法制度改革案発表に反対の声が上がっていた中で、ガザ戦争以降はハマース殲滅や人質奪還といった目標が果たせずに一層支持率が低下する状況に対して、ほとんど打開策を見いだせていない。こうした観点から見れば、今般のアルジャジーラの活動規制を動機づけた要因は、「10月7日の虐殺に積極的に加わり」との表現からもうかがえるように、10月7日のハマース攻勢の責任を軽減しようというネタニヤフ首相の思惑だろう。法案可決前日の3月31日には、エルサレムで同首相及び連立政権に対する大規模な抗議集会とデモが発生した(ガザ戦争以降、最大規模とも言われる)。10月7日直後、ネタニヤフ首相はハマース攻勢を招いたとして関係当局を非難したが、この際は逆に同首相に対して疑念の声が投げかけられ、非難を撤回する事態となった。連立政権・戦時内閣も、ハマースから領土を守る、という点を除けば呉越同舟の性格が強まっている中、ネタニヤフ首相としては国民の批判の矛先を国内に向けるわけにはいかず、ひとまず海外(アルジャジーラ)に向けたと評価できる。

(研究主幹 高尾 賢一郎)

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