中東かわら版

№3 イラン:イスラエルによる革命防衛隊幹部殺害に対する反応

 2024年4月1日、イスラエル軍がダマスカスにあるイラン領事館庁舎をミサイル攻撃し、革命防衛隊幹部を含む7名を殺害した(詳細は『中東かわら版』No.1参照)。今次事案の発生により、イランが今後どのような対応を講じるかが注目される。現時点において、イラン側から発せられている反応は概要以下の通りである。

 

革命防衛隊(4月1日付広報部門声明

●イラン暦1403年ファルワルディーン月13日(注:西暦2024年4月1日)夜、シオニスト政体(注:イスラエル)がダマスカスにあるイラン領事館庁舎に対してミサイル攻撃を行った。

●この攻撃で、ムハンマド・レザー・ザーヘディー准将、ムハンマド・ハーディー・ハージー・ラヒーミー准将、及び軍事顧問5名が殉教した。殉教者5名の氏名は、ホセイン・イマーン・エッラーヒー、メフディー・ジャラーラティー、モフセン・サダーカト、アリー・アーガー・バーバーイー、アリー・サーレヒー・ルーズバハーニーである。

●この戦争犯罪を強く非難するとともに、殉教者及びその遺族に弔意を示す。(遺体の)搬送、葬儀、及び、埋葬の予定については追って発表する。

 

アブドゥルラヒヤーン外相(4月2日付Xへのポスト

●ダマスカスにあるイラン領事館庁舎に対するテロ攻撃と、複数名の殉教者の発生を受けて、米国の利益代表部を務めるスイス大使館高官を2日朝に呼び出し、シオニスト政体の支援者である米国政府に対する重要なメッセージを伝達した。米国はこれに回答しなければならない。

 

キャナアーニー外務報道官(4月1日付発言

●今次攻撃は、国際法規定、特に外交関係に関するウィーン条約(1961年)の甚大な違反であり、国際社会と国連により最も強い言葉で非難され、必要な行動が取られなければならない。

●現在、今次攻撃に関する調査が進行中であり、それによる結果と影響への責任はシオニスト達にある。

●イランは対抗措置を取る権利を保持しており、攻撃者への反応と懲罰の種類に関して決定する。

 

 また、アブドゥルラヒヤーン外相は1日、シリアのミクダード外相と電話会談した。その中で同外相は、攻撃者は今次犯罪行為の影響に対して責任を負うことになるだろうと述べた。これに対し、ミクダード外相はイスラエルの攻撃を国際法違反だとして強く非難した。

 

評価

 昨年10月7日のガザ危機勃発以降、イスラエルによる革命防衛隊幹部に対する攻撃が続いてきた。こうした中、イスラエルは今般、海外での情報工作・破壊活動等を担う革命防衛隊ゴドス部隊でシリア・レバノン方面の責任者を務めるザーヘディー准将及びその副官らを殺害した。今次事案がこれまでと異なる点は、イスラエルがイランの外交使節(注:声明ではサーフトマーン・コンスールギャリー;領事館の建物、とある。映像を見る限り、イラン大使館に隣接する建物のようである。)を直接攻撃した点である。ウィーン条約には、使節団の公館は不可侵と記されている。

 こうした背景もあり、イランは今回のイスラエルによる攻撃を、看過することのできない主権侵害と受け止めているものと考えられる。特に、イランではライーシー政権発足(2021年)以降、三権の長全てが保守強硬派で占められた他、直近の議会選挙(2024年3月)でも保守強硬派が台頭するなど、その声が国内で強まっている。イスラエルから弱腰と見られる状況を避ける必要があろう。イラン国民向けにも、イスラエルに報復を果たしたと言える状況を作る必要に迫られる。この意味では、イラン側の反応が激しいものになる可能性は排除されない。

 一方、イスラエルと交戦する状況を、イランも望んではいないと見られる。イスラエルは約16万9500人の兵力を有し、最新鋭の兵器を保有する他、核保有も囁かれている(IISS, Military Balance 2024)。その支援国は世界第1位の軍事大国の米国である。イスラエルと事を構える事態になれば、双方に甚大な被害が生じることについてはイラン体制指導部も充分理解していると考えられる。イスラエル側が、イランに警告を与えるという以上の意味合いを今次攻撃に含ませていたかも不明である。こうした中、イランとしては、イラン国内向けには報復を果たしたと言うことができ、同時にイスラエルには、今後の同様の攻撃を許さないとのメッセージを送ることができるといった、比例原則を越えない範囲での現実的な対抗措置を取ることになると考えられる。イランとイスラエルの両方にチャンネルを有する、UAEやカタルのような第三国による仲介の動向も注目される。

 

【参考】

「シリア:イスラエルがダマスカス市内のイラン領事館を爆撃」『中東かわら版』No.1、2024年4月2日。

(研究主幹 青木 健太)

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