№2 トルコ:統一地方選挙での野党勝利でエルドアン政権に国民の審判
2024年3月31日、トルコで統一地方選挙が実施された(東部32県では7時から16時まで、残り49県では、8時から17時まで投票が行われた)。
投票から一夜明けた4月1日、高等選挙委員会(YSK)のイェネル議長が記者会見し、今回の選挙には34の政党が参加、6100万人以上の有権者が投票したと述べた。
イェネル議長は非公式結果としながらも、最大野党の共和人民党(CHP)が35の市長職を獲得したと明らかにした。一方、与党公正発展党(AKP)は24、クルド系政党の人民の民主主義党(DEM)が10、民族主義者行動党(MHP)が8、新福祉党(YRP)が2、大統一党(BBP)が1、野党第二党の善良党(İYİ)が1と発表した。
このうち、アンカラ、イスタンブル、イズミルを含む30の大都市圏の市長は、CHPが14、AKPが12、DEMが3、YRPが1であると明らかにした。
有権者数 | 61,430,934 |
投票者数 | 48,256,541 |
有効票数 | 46,046,999 |
無効票数 | 2,210,042 |
投票率 | 78.55% |
出所:『Hürriyet』2024年4月2日時点
評価
今次選挙の最大の注目点の一つが、2019年時に野党候補者が勝利したアンカラ、イスタンブル市長を野党側が死守するか、与党が奪還するのかということだった。
与党は、イスタンブル候補者に直前まで閣僚を務めたムラト・クルムを充て、アンカラでは、アンカラ市区長のアルトゥノクを立てたが、いずれも現職に敗れた。それのみならず、大都市圏で半数近くを野党のCHP候補者が獲得するという、AKPが政権を獲得以来、初めての状況に陥った。その意味で、今回の選挙は、トルコの政治情勢に転換点となり得る結果をもたらしたといえる。
第一に、過去20年以上にわたり、AKPとトルコを率いてきたエルドアン大統領が実質的な敗北を喫したことである。今回の結果がトルコの国政や外交政策に直接的な影響を与える訳ではないものの、これまで何度も危機的な状況を潜り抜けてきたエルドアン政権が(地方選とはいえ)、初の敗北を喫したことは、同政権の限界点が見えたとも指摘できるだろう。
第二に、これまで強いリーダーシップを発揮してきたエルドアン大統領に強力なライバルが二人出現したことである。接戦を制したイスタンブルのイマムオール市長、アンカラのヤワシュ市長は、今後、これまで以上に政界での存在感を増すとみられ、現時点において2028年の有力な大統領選候補者である。現行憲法では、エルドアン大統領の再出馬(三選禁止規定による)は認められてはいないが、憲法改正議論も取り沙汰されている。仮に同禁止規定の改正がなされず、エルドアン大統領が立候補しなかったとしても、上記2名はAKP候補を脅かす存在になり得るだろう。
第三に、2023年の大統領・議会選で手痛い敗北を喫したCHPが、今次地方選で躍進したことである。2023年時は主要野党6党による連合を組んでエルドアン政権に挑んだが、イデオロギーが異なる政党同士の連合は、結果としてCHPのコアな支持層離れを引き起こした。この経験を基にCHPは新たな指導者を選任したうえで刷新を図り、単独で選挙戦を戦った。この戦略が奏功し、CHP勝利につながったと考えられる。
トルコの政治情勢に、こうした転換点をもたらした最大の理由は経済である。過去数年間、経済問題は国内で最も大きな焦点となってきた。2023年5月のダブル選挙時においても、この問題が争点となったが、最終的に国民の多くがエルドアン大統領に希望を託した。だが、それから1年近くを経た現在でも経済状況は好転せず、インフレは高止まりの状況が続いている。物価高騰により多大な影響を受けてきた年金受給者、都市部の中間層、労働者らの不満が今回の選挙結果に反映されたと指摘できる。
一方で、AKPの政策を敬遠した市民の多くが消去法的にCHPを選んだとも考えられる。この意味で今回の勝利が、必ずしもCHP自体への信任という訳ではない、ということには注意が必要であろう。
いずれにしても、権力に対する国民の審判が選挙という民主的な方法で行われたことは、トルコが成熟した民主国家であるということの証左だといえるのではないだろうか。
(主任研究員 金子 真夕)
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