中東かわら版

№33 イラク:解決のめどが立たない“「イスラーム国」の子供たち”問題

 

 『シャルク・アウサト』(サウジ資本の汎アラブ紙)は、「イスラーム国」の構成員の子供の問題が依然として未解決だと報じた。クルド地区の政府の当局者は、2023年6月1日の「国際子供保護の日」に合わせて記者会見を開催し、「イスラーム国」の構成員の子供たちの問題について以下の通り述べた。

*「イスラーム国」の者たちが異教徒の女性に産ませた子供たちの宗教的な帰属が重要な問題となっている。この件については国際的な勧告があり、我々はそれを遵守するつもりなのだが、問題は連邦政府の管轄である。これらの子供たちには身分証明書を発行すること、養育者を確定させること、彼らにイスラームを強制しないことが求められる。本件は複雑であり、ある程度は法律上の問題である一方、政治的決定を必要とする問題でもある。

*クルド地区の当局は、「イスラーム国」と交戦している期間中に同派による収監から逃亡した者6417人、収監施設から解放した者3562人を保護した。これらのうち2745人は孤児であり、「イスラーム国」がイラク憲法140条で規定する連邦政府とクルド政府との間で帰属が確定していない地域を攻撃したことにより、両親の片方、あるいは両方を失った者だ。

  イラク政府は、「イスラーム国」を掃討した後、同派の構成員の子供たちの戸籍の問題、子供たちの親や宗教的帰属が不明になっている問題に直面した。この問題は、イラク国内の政治的対立のせいで現在も解決されていない。その上、シリア領内にあるフール・キャンプに収容されている者たちの問題もある。同キャンプには、「イスラーム国」の幹部が収容されている一方、同派とは無関係だが治安や政治の問題が原因でイラクに帰国できない者たちも収容されている。イラク政府は、フール・キャンプに収容されているイラク人をイラク領に移送し、ニナワ県内に居住施設を建設する方針についてアメリカ政府と協議している。 

評価

 イラクで「イスラーム国」が掃討されてから6年余りが経過しているが、同派の構成員の子供の処遇の問題が未解決のまま、彼らが教育や能力開発の機会を十分に得られないでいることは、深刻な問題である。「イスラーム国」は、ヤジード派をはじめとする異教徒を迫害する目的で、ヤジード派の女性たちを性奴隷として迫害したり、子供を連れ去って「イスラーム国」の構成員として育成したりした。このため、子供たちの一部は「イスラーム国」の被害者であるにもかかわらず、その被害を回復することができないままの状態に置かれている。「イスラーム国」の被害の回復・補償や、同派の構成員・協力者への裁判・懲罰への国際的な関心が失われている点が最大の問題点といえる。一方、フール・キャンプの問題はさらに深刻だ。なぜなら、同キャンプはシリア紛争の結果同国の北東部を占拠したクルド民族主義勢力の管理下にあり、多くの者が法規や手続き上の空白地に超法規的に収容されているからだ。同キャンプに収容されている者たちについては、イラクをはじめ収容者の出身国の一部が帰還や引き取りを試みているが、それが実現した者の割合は収容者全体から見ると高くはない。その理由は、今般の記事で指摘されたようにイラクの政治・治安環境もあるが、「イスラーム国」の構成員やその家族の場合、彼らを訴追・懲罰する体制がほとんど整備されていないことがある。フール・キャンプの収容者の出身国の多くは、彼らを訴追したり、更生させたりする手間を嫌い、同キャンプとその収容者の管理という「汚れ仕事」を非国家武装主体(民兵)に任せている。

(協力研究員 髙岡 豊)

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