中東かわら版

№32 イスラエル:地域情勢の変化を受けたヘルツォグ大統領のアゼルバイジャン訪問

 2023年5月30~31日、ヘルツォグ大統領はアゼルバイジャンを訪問し、同国のアリエフ大統領と会談した。アゼルバイジャンは今年3月29日、テルアビブに大使館を設立したばかりである。今次会談はそのフォローアップを兼ねた両国間の包括的な関係強化を見据えたもので、イスラエル側は、地域におけるイランの脅威について共有を図ったことを強調し、国内での諜報に携わるイスラエル総合保安庁(シン・ベト)とアゼルバイジャン軍の協力等につき協議した。

 

評価

 国内が司法改革案(最高裁権限の制限)の是非をめぐる意見の分断で揺れる中、政府には、域内情勢を受けた対応で成果を上げようとの思惑がうかがえる。アゼルバイジャンとの関係強化のアピールは、とりわけイラン・サウジアラビアの国交回復合意と、トルコのエルドアン大統領の再選を受けたものと考えらえる。

 イスラエルにとって、アゼルバイジャンは石油輸入元、また武器輸出先のパートナーであり、近年では2020年の第二次ナゴルノ・カラバフ紛争の際にドローン兵器の供与を行うなど、軍事・安全保障上でも緊密な関係にある。このため、二国間関係の強化の動き自体に新しさはない。一方、アゼルバイジャンは上記紛争を経てトルコと戦略的利害を一致させており、また2018年の米国によるイランへの「最大の圧力」(トランプ大統領が決定した経済制裁)に加わって以降、イランとの関係が悪化している(今年1月にはテヘランのアゼルバイジャン大使館への銃撃事件も発生した)。イスラエルとしては、アゼルバイジャンとの関係を、2022年8月に外交関係を回復したトルコとのさらなる連携、及びアラブ諸国への接近を図るイランの影響力拡大をけん制するための梃子としたいところだろう。

 もっとも、イランのけん制に関していえば、イスラエルにとって当面の最大の目的といえるのはサウジアラビアとの国交正常化である。しかし、これについてはまだ具体的な見通しが立っておらず、サウジ側も前向きな姿勢は見せていない。この点、イスラエルは対アゼルバイジャン関係という既存のカードに頼らざるをえない状況にあるともいえる。

 

【参考】

「イスラエル:「エルサレムの日」でアピールされる緊張の継続とアラブ諸国の動向との関係」『中東かわら版』No.24。

※イスラエル情勢については、2023年6月9日の中東情勢オンライン講演会(今野泰三・中京大学教養教育研究院教授「右派政権の復活と「民主主義の危機」言説の陥穽」)もご参考下さい。

(研究主幹 高尾 賢一郎)

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