中東かわら版

№34 イラン:新興5カ国(BRICS)との連携を強化

  2023年6月2日、アブドゥルラヒヤーン外相はケープタウン(南アフリカ)で開催された、新興5カ国(BRICS)フレンズ外相会合に出席した。BRICSとは、著しい経済発展を遂げたブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカの5カ国を指しており、今回開催されたBRICSフレンズ外相会合はBRICS外相本会合(1日)の翌日に、BRICS加盟に関心を有する国々を含める形式で行われた。BRICSフレンズ国は十数カ国あり、中東からは、イラン、サウジアラビア、UAEの外相が各々参加し、エジプトはオンライン参加した。

 議長を務めた南アフリカのパンドール国際関係・協力相は、世界は感染症や食料価格の高騰、エネルギー需要の逼迫等の多くの課題に直面しており、南アフリカは平和、多国間主義、発展に向けたパートナーシップに世界が立ち戻ることを希望すると演説した。アブドゥルラヒヤーン外相は、「BRICSフレンズ」とは即ち「多国間主義のフレンズ」であると述べ、かねてより多国間主義を標榜してきたイランにとってBRICSは次なる重要な多国間主義政策のターゲットだと発言した。また、同外相は、こうした理由からイランはBRICSへの加盟に当初から関心を示してきたと説明し、イランは近くテヘランにおいてBRICS諸国の大使館と調整して、イランとBRICSとの間の協力の可能性を協議するための会合を開催する予定だと発言した。

 また、アブドゥルラヒヤーン外相はBRICSフレンズ外相会合のサイドで、ロシアのラブロフ外相、ブラジルのヴィエイラ外相、インドのジャイシャンカル外相、サウジアラビアのファイサル・ビン・ファルハーン外相、UAEのアブドッラー・ビン・ザーイド外相、ガボンのイモンゴ外相らと会談した。アブドゥルラヒヤーン外相はサウジアラビアのファイサル・ビン・ファルハーン外相との会談において、イラン・サウジアラビア両国は新たに大使を任命しており、大使館・領事館再開への舞台は整ったと発言した。一方のファイサル・ビン・ファルハーン外相は、イラン国内のサウジアラビア大使館・領事館再開に向けたイランからの協力に謝意を伝え、自ら近くイランを訪問すると述べた。

 

評価

  BRICSは、結成当初、5カ国に限定されていたが、近年、メンバーを増やす意向を示してきた。今回、アブドゥルラヒヤーン外相がBRICSフレンズ外相会合に参加した事実からは、米国による一極支配体制が終わりつつあるとイランが認識する中で、イランがBRICSと新たなパートナーシップを模索していることがわかる。2018年5月にトランプ前米大統領がイランに対し「最大限の圧力」を科して以降、イランは、中国、ロシアに接近するとともに、近隣諸国、イスラーム諸国、及び、地域機構との関係を強化してきた。最近では、ライーシー大統領のインドネシア訪問(5月下旬)などがこうした傾向の一端を表している。また、イランは2021年9月に上海協力機構(SCO)への加盟を表明したが、本年7月にもこれが正式に認められる予定である。総じて、イランは欧米との軋轢を深める中で、対外関係の多角化を図っている。

 今次訪問でもう一つ注目されるのは、イラン・サウジアラビア外相の直接会談である。本年3月10日の国交回復合意以降、両国外相は4月6日に北京で直接会談を行うなど、国交回復実現に向けて着実にステップを踏んできた。今次会談もその延長線上に位置づけられるものであり、両国が大使館・領事館の再開に向けた取り組みを続けていることが確認できる。但し、3月10日に発出された三カ国共同声明では、イラン・サウジサウジアラビア両国は2カ月以内に大使館を相互に再開させることに合意していたため、合意は事実上不履行になっていると見ることもできる(3カ月近くを経てもなお、両国大使館の再開は確認されていない)。こうした状況に鑑みると、イラン・サウジアラビア国交回復合意は事務方の積み上げ(ボトムアップ)で合意に至ったというよりは、政治主導(トップダウン)で決められた様子がうかがえる。

 

【参考】

「イラン・サウジアラビア:国交回復合意の発表後、初となる公式外相会談」『中東かわら版』No.1。

「サウジアラビア:イランとの国交回復決定に至った背景及びその影響」『中東かわら版』2022年度No.158。

「イラン・サウジアラビア:中国の仲介で外交関係が正常化」『中東かわら版』2022年度No.157。

「イラン:上海協力機構(SCO)加盟にかかる約束覚書に署名」『中東かわら版』2022年No.86。

(研究主幹 青木 健太)

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