中東かわら版

№28 シリア:イスラーム過激派の主要活動家がイドリブ県から逃亡

 SNS上で、イドリブ県で活動していたイスラーム過激派の著名活動家アブドッラー・ムハイシニーが、同地を離れてトルコに拠点を移したとの情報が流布した。ムハイシニーはサウジ人で、2013年にシリアに潜入するとヌスラ戦線(現:シャーム解放機構。シリアにおけるアル=カーイダ)の幹部格として活動し、2016年までの間に外国人や未成年者を含む多数をヌスラ戦線に勧誘し、自爆攻撃などに起用した。また、同人は2016年にヌスラ戦線がシャーム征服戦線に改称し、組織を再編する際に大きな役割を果たしたとされるほか、「イスラーム国」とヌスラ戦線やアル=カーイダとの対立と絶縁の際にも、アルーカーイダの指導者のザワーヒリーから状況説明の書簡を送られるなどの著名活動家だ。なお、ムハイシニーは出身国のサウジでは指名手配されており、帰国を望む場合は逮捕・処罰の対象となる模様である。

 ムハイシニーは、2017年ごろからシャーム解放機構と距離を置くようになり、広報場裏での活動も低調になっていた。これが、最近同派との方針の対立が激化したため粛清を恐れて活動拠点をトルコに移し、同人のシリアでの活動は、時折イドリブ市内のモスクなどを訪れて情宣活動をするようになったとの情報がある。 

評価

 ムハイシニーがイドリブ県から逃亡したことは、シャーム解放機構が同地で競合する他のイスラーム過激派諸派の制圧・解体を進めて権力の独占を図る一方で、アル=カーイダとの分離やイスラーム過激派色の払拭をも図っている中でのできごとだ。また、同人の出身国であるサウジは、先般のシリアのアラブ連盟復帰に象徴されるようにシリア政府との関係改善を進めている。つまり、イドリブ県を占拠するイスラーム過激派の利害関係から見ても、ムハイシニーの出身国であり、人員も含む資源の調達地とも思われるサウジの外交動向から見ても、同人がこれまでのようにアル=カーイダとも親しいイスラーム過激派の著名活動家として自由に振る舞うことは都合が悪くなっていたということである。ムハイシニーの動向は、シリア紛争に便乗して猛威を振るったイスラーム過激派の少なくとも一部が、紛争の帰趨が定まり、シリアをめぐる政治環境が変化する中で居場所を失っていることを象徴している。

(協力研究員 髙岡 豊)

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