中東かわら版

№30 アフガニスタン・イラン:両国国境警備隊が衝突、複数名が死傷

 2023年5月27日、アフガニスタン南西部ニムルーズ州のイラン国境において、ターリバーン国境警備隊とイラン国境警備隊が衝突した(下図参照)。状況は流動的ではあるが、同日付『IRNA通信』(イラン国営通信)は、イラン国境警備隊員2人が死亡、イラン民間人2人が負傷したと報じた。また、同日付『ハーマ通信』(アフガニスタン民間通信社)によると、ターリバーン国境警備隊員1人も死亡した模様である。SNS上では、ターリバーン戦闘員がイラン治安部隊の哨戒所を襲撃する様子や、ターリバーンの現場司令官がイランを挑発する動画等が流れた。こうした中、イラン側は、南東部シースターン・バローチスターン州に正規軍及び治安維持軍の司令官を派遣した。同州を訪れたヘイダリー正規軍将官は28日、国境地帯はコントロール下にある、もしアフガニスタンが国際法規を尊重すれば、イランは善隣の考えの下で対応すると発言した。

 28日付『トロ・ニュース』(アフガニスタン独立系通信社)は、軍事的衝突の発端について、イラン側が先に発砲したとのニムルーズ州地元民の声を報じた。一方、28日付『プレスTV』(イラン国営放送)は、ターリバーン側が先に発砲したとのレザーイー治安維持軍副司令官の発言を伝えている。

 

図 アフガニスタン・イラン国境警備隊の衝突発生地点

(出所)筆者作成。

 

評価

 今回の衝突の直接的な発端については、両国双方が異なる見解を示しているため不明と言わざるを得ない。しかし、両国間で緊張が高まっていた背景には、アフガニスタン中央部を覆うヒンドゥークシュ山脈から南西方面に向かい、西の隣国イラン領へと流れるヘルマンド川の水利権を巡る問題が挙げられる。1973年に両国間で締結された条約に基づき、アフガニスタンは、原則、26立法メートル/秒(8億2000万立法メートル/年)のヘルマンド川の水利権をイラン側に認めている。しかし、近年、イラン側からは同国内の水不足の問題を背景に、同条約で合意された充分な水量が流れてないとの不満をターリバーン側に伝えるようになっていた。一方、ターリバーン側は、厳しい干ばつもあり当時と今とでは状況が違う、対話を通じて問題を解決したいとの立場を示していた。

 このような状況下、イランのライーシー大統領が18日にシースターン・バローチスターン州を訪問した際、「アフガニスタンの統治者はイラン人専門家による調査を認めよ」「我々の言葉を真剣に聞くべきだ」と警告を発していた。続く25日、アブドゥルラヒヤーン外相が、「イランは、現在のアフガニスタンの実効支配勢力(注:ターリバーンを指す)を承認しない。ターリバーンはアフガニスタンの現実の一部に過ぎず、同国で包摂的な政府が樹立される必要がある」と述べた。これらの挑発的と受け取れる発言は、当然ターリバーン側にも伝わっていたと考えられる。このため、何かのきっかけで爆発しかねない不満が、ターリバーン戦闘員らの間で蓄積されていたと考えられる。

 今後、今回の衝突がエスカレートするか否かは、両国が抑制的な対応を取れるかにかかっているが、現時点でその可能性が高いとはいえない。両国は900キロメートル以上の国境を接する隣国同士であり、アフガニスタンにとってイランは最大の貿易相手国の一つである上に、移民の受け入れ先でもある。イランはこれまで、ターリバーンを承認する国が現れない中にあっても、対外的にターリバーンを支える姿勢を示してきた。一方のイランの立場からしても、欧米から経済制裁を科され、イスラエルとの軍事的緊張を抱える中、ターリバーンと事を構えることで得られるメリットはほとんどないどころか、戦力の消耗という点では避けたい事態である。また、現在、アフガニスタン・イラン両国のどちらとも良好な関係を有する国に、中国とロシアがあり、仮に事態がエスカレートする局面にあっても、これらの国は仲裁するチャンネルと影響力を保持している。このため、両国国境付近で緊張状態が続く可能性があるとはいえ、衝突の継続を避けるべく、再発防止に向けた協議が行われることになるだろう。

 

【参考】

「アフガニスタン:パキスタン軍機の越境攻撃で多数の市民が死傷」『中東かわら版』2022年度No.10。

(研究主幹 青木 健太)

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