中東かわら版

№27 イラン:シャムハーニー国家最高安全保障評議会書記の交代の背景

 2023年5月22日、アリー・シャムハーニー国家最高安全保障評議会(SNSC)書記が辞任し、新たにアリー・アクバル・アフマディヤーン元革命防衛隊海軍司令官が同職に就任した。同日付『ヌール・ニュース』(SNSC系)は、シャムハーニー書記は公益判別会議メンバー、及び、最高指導者付政治顧問に就任すると伝えた。

 今回退任するシャムハーニー書記(海軍少将)は、1955年南西部フーゼスターン州アフワーズ生まれのアラブ人で、イラン・イラク戦争時にフーゼスターン州革命防衛隊司令官(1979-1981年)を務めた後、革命防衛隊副司令官兼陸軍司令官(1981-1989年)、海軍司令官(1989-1997年)、国防・軍需相(1997-2005年)等々を歴任し、2013年9月からSNSC書記を務めてきた。2001年大統領選では、大統領候補として出馬したことがある。最近では、本年3月の北京でのサウジ・イラン国交回復合意で、イラン側代表団の首席交渉官として大詰めの交渉を率い、中国による仲介でサウジ側代表団との署名に漕ぎ着けた立役者だった。

 後任となるアフマディヤーン新書記(准将)はケルマーン州出身で、革命防衛隊海軍司令官(1997-2000年)、革命防衛隊参謀本部長(2000-2007年)等々を歴任し、近年は革命防衛隊戦略センター長、及び、公益判別会議メンバーを務めてきた。

 

評価

 今回の人事は、シャムハーニー書記がサウジ・イラン国交回復合意という成果を導いた後だけに、やや不可解なものにも映る。21日、同書記がツイッター上にペルシャ語の詩を一節書き込み、それを受けて『ヌール・ニュース』が同書記の辞任は確かだと伝えたという、いわば通常と異なる人事発表に至る流れも、こうした印象を補強している。SNSCは、国家安全保障に関わる事項を意思決定する大統領指導下の機関で、三権の長、軍参謀長、予算部局長、内相、外相、情報相、国軍司令官、革命防衛隊司令官等のイラン国内のほとんどのパワーセンターを内包しており(憲法176条)、外交・安全保障面で重要な役割を果たす。こうした事情から、今回の人事が、本年初頭のアリー・レザー・アクバリー元国防・軍需省幹部(イラン・英国籍、シャムハーニー書記と近かったといわれる)のスパイ容疑による死刑求刑と関連付ける見方がある。また、体制内部の権力闘争によるものとの見方や、次回大統領選挙(2025年)にシャムハーニー書記が出馬を検討しているために辞任に至ったのではとの見方もある。

 また、核交渉が実質的に凍結状態にあることを踏まえれば、今回の人事が状況を打開するかが注目される。EUの仲介により、2022年夏には合意間近と伝えられた核交渉だが、現時点で、ほとんど進展は見られない。軍事畑を一筋に歩み、外交分野での経験に乏しいアフマディヤーン新書記が保守強硬派の声を汲み取りつつ同問題に上手く対処できるのか、また、交渉を主導するバーゲリーキャニー首席交渉官(外務事務次官)と対立せず協調できるかが今後の注目点である。

 

【参考】

「イラン・ライーシー政権のゆくえ ――保守強硬派の台頭とその帰結――」『中東分析レポート』R22-09。※会員限定

(研究主幹 青木 健太)

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