中東かわら版

№183 イスラエル・パレスチナ:再燃したガザ戦争#19――孤立深まるイスラエル

 本稿執筆時点において、ガザ中部・南部ハーン・ユーニスでの戦闘が継続中である。ガザ北部では、イスラエル軍が18日から北部最大のシーファ病院を再襲撃し、再編されたハマース部隊の掃討作戦を開始した。23日時点で、イスラエル軍は同病院の作戦で、ハマース戦闘員150人以上を殺害、700人近くを拘束したと発表している。中部のヌセイラート難民キャンプへの空爆(9-10日)により、ガザのハマース幹部No.3、軍事部門副官のマルワーン・イーサーが死亡した可能性があると報道された。イスラエル軍は、確認中としているが、ホワイトハウスNSCのサリバン補佐官は、18日、同人が死亡したと述べている。人質解放交渉での動きはない。ただイスラエル代表団は、18日からカタルのドーハに滞在しており、協議が継続されている。

 政治・外交面では、14日、米上院民主党トップのシューマー院内総務は、上院で中東和平の4つの障害についての演説を行い、①ハマース、②パレスチナ自治政府のアッバース大統領、③イスラエルの極右政党、④ネタニヤフ首相を批判した。イスラエルについては、シューマーは、早期選挙による政権交代を求めた。シューマー議員は、長年、イスラエル支持派として知られている。18日には、ドイツのショルツ首相がイスラエルを訪問、ネタニヤフ首相と会談した。会談後の共同会見では、ガザにおける市民犠牲者数の多さやガザに支援が十分に届いていないことなどについて懸念を共有したと述べた。ドイツは一貫してイスラエルを支持する立場を取っており、ショルツ首相がイスラエルに対してこれほど厳しい態度を見せるのは異例だと報道された。また同日、バイデン大統領がネタニヤフ首相と電話会談した。バイデンは、ラファフ攻撃に懸念を表明し、攻撃や住民移送計画を協議するための代表団派遣を要請した。22日には、ブリンケン国務長官がサウジ、エジプトを訪問した後イスラエルを訪問、ネタニヤフ首相と戦争閣議メンバーと会談した。ブリンケンもラファ攻撃に反対を伝えている。なおバイデン大統領が要請した代表団は、25日にワシントンを訪問する。ガラント国防相が、同じ時期に、オースティン国防長官の招きでワシントンを訪問する。

 ガザへの人道支援物資搬入について、国連、米国、英国、EUなどは援助物資が十分に届いておらず、飢餓のリスクが高まっているとの懸念を表明し、イスラエルにガザに搬入される荷物に対する過剰な検査をしないよう要請している。23日、国連のグテーレス事務総長は、ラファフ境界を視察してイスラエルを批判している。他方、イスラエル軍は一貫して、飢餓は発生しておらず、人道支援物資は充分に搬入されていると主張している。同軍は、ガザ内で食料不足が発生しているのは、国連と人道支援機関が食料配布を怠っていること、ハマースが支援物資を奪い、また横流しをして商人に転売しているためだと主張している。両者の言い分は対立しているが、イスラエル側の主張に同調する国・組織はない。

 

評価

 人質解放交渉では、大きな進展はない。ただ、イスラエル代表団は、ドーハに継続的に滞在している。団長格のモサドとシンベド長官、イスラエル軍幹部らは、イスラエルとカタル間を進展に対応して往復している。ガザ北部では、一旦駆逐されたハマース戦闘員らが、再編制・再結集しているようだ。18日、ホワイトハウスNSCのサリバン補佐官は、イスラエル軍は、ハマースを追放した後、代わりにその地区を誰が統治するか決めていないため、ハマースの部隊が戻っていると指摘している。ガラント国防相やイスラエル軍幹部らは、ハマース追放後の「権力の空白」にどう対処するかの方針を早急に決めるようネタニヤフ首相に要請しているが、首相は決定を先延ばしにしている。占領や入植地再建を求めている、閣内の極右の反発を懸念しているようだ。

 ラファフ攻撃をめぐり、イスラエルと米国が対立しているが、ネタニヤフ首相が本気でラファ攻撃を主張しているとは限らない。イスラエルのメディアは、大規模な攻撃をするための部隊増強が行われていないと指摘している。米国は、ラファフ攻撃の際は、住民の避難計画がないと攻撃は支持しないとの立場を再々表明している。報道では、ネタニヤフ首相は軍が作成したラファフ攻撃計画は承認(3.15)しているが、住民の避難計画はまだ作成中のようだ。ネタニヤフ首相は、米国が反対してもラファを攻撃すると主張しているが、そこまでしてラファを攻撃する軍事的、政治的価値があるか疑問だ。むしろネタニヤフ首相は、連立している極右政党や国内の支持者向けに、世界あるいは米国とでも対峙できる強い政治家を演出していると考えたほうが合理的だろう。ヤアロン元国防相(リクード・23日)は、ネタニヤフは、米国の反対を理由にラファ攻撃を中止し、その結果としてハマースに対する「完全な勝利」が達成できなくなったと言い訳するだろうと推定している。他方、ネタニヤフ首相が、米国の意向を無視してラファ攻撃を実行した場合、すでに険悪化している両国関係は、さらに緊張するだろう。

 バイデン大統領とシューマー議員は、長年イスラエルを支持してきた米国のシニア世代の政治家である。その二人ですら、今のイスラエル政権を公の場で強く批判するようになった。両者の言動は、イスラエルを支持するシニア世代の米国人有権者に少なからぬ影響を与えるだろう。またユダヤ人であるシューマー議員の行動は、在米ユダヤ社会に、ユダヤ人が公の場でイスラエル政府を批判する先例モデルとして機能するかもしれない。民主党の対イスラエル政策は、イスラエルに批判的な若手政治家や左派議員の増大もあり、今後、さらに厳しくなるだろう。他方、共和党は、イスラエルを強烈に支持するキリスト教徒右派・福音派の票をねらっている。福音派のイスラエル支持は、聖書の解釈によるもので、現実の政治問題は関係ない。そのため福音派の票を取り込みたい共和党と人権問題やパレスチナ占領を重視する民主党の対イスラエル政策は、折り合わない。米国のイスラエル支持体制は、「超党派による支持」とされてきたが、シューマー演説は、その構造が崩壊しつつあることを明示している。

(協力研究員 中島 勇)

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