中東かわら版

№182 UAE:ドイツとのLNG長期契約

 2024年3月18日、アブダビ国営石油会社(ADNOC)はドイツ国営会社「セキュアリング・エナジー・フォー・ヨーロッパ(SEFE)」の子会社と、15年間の液化天然ガス(LNG)長期契約を締結した。同契約では、UAE西部に新設されるルワイスLNG施設で生産された年間100万トンのLNGが2028年よりドイツに供給される。

 ルワイス(Ruwais)工業都市でのLNG施設の新設事業では、ADNOCが今月12日にプラント建設の準備作業となる限定的着工指示(LNTP)を発行し、進展が見られた。今年中に同事業に関する最終投資決定(FID)が行われる予定である。960万トンの年間生産能力を擁するルワイスLNG施設が完成すれば、UAEのLNG生産能力は現在比の2倍以上の最大1560万トンに増加する見通しである。

 

評価

 UAEは近年、太陽光・原子力発電の導入を通じて電源構成を多角化することで、発電用ガスの消費を抑制し、天然ガス輸出を増加させようと試みている。また、将来的なガス輸出を見据えて、LNG生産能力の拡大にも取り組んできた。ドイツ側も、2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻を契機に、エネルギー面での脱ロシア政策を進めているため、ガスの代替調達先を求めていた。

 こうした中、ドイツがUAEとLNG長期契約を結んだ理由の1つとして、ルワイスLNG施設がクリーンエネルギーで稼働する低炭素型LNG施設であるからだと考えられる。同施設が位置するアブダビ首長国にはクリーンエネルギーを供給できる体制ができており、太陽光・原子力由来の電力が産業部門全体での二酸化炭素の削減に貢献している。一方、ドイツはEU加盟国として、2026年に国境炭素調整措置(CBAM、EU域外の環境規制の緩い国で製造された輸入品に事実上の関税を課す制度)の本格導入を控えている。このため、LNGサプライチェーンの低炭素化を図るUAEから輸入するLNGであれば、同措置の適用を免れて、関税コスト負担を回避できる利点がある。

 LNG輸出は、周辺国のカタルやオマーンも注力しており、中東諸国間だけでも販路確保に向けた競争が激しくなっている。この先、UAEはこれまでのクリーンエネルギー政策の成果を最大限アピールすることで、アジア諸国だけでなく、欧州諸国とのLNG長期契約数も増加させていくだろう。

(主任研究員 高橋 雅英)

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