中東かわら版

№181 エジプト:IMFと融資拡大で事務レベル合意

 2024年3月6日、エジプト政府は国際通貨基金(IMF)と、拡大信用供与措置(EFF)による融資枠の拡大に事務レベルで合意した。今次合意により、エジプトに対するIMFの融資額は、2022年12月時に合意した30億ドル相当の23.5億SDR(特別引出権)から、80億ドル相当の61.1億SDRに増加する。エジプトは最終的な融資獲得に向け、以下の経済改革に着手している。この先IMF理事会はエジプトの取り組みの成果を踏まえて、融資の可否を判断する。

  • 柔軟な為替相場制度への移行
  • インフレ率の抑制に向けた金融引き締め
  • 債務の削減や財政の健全化
  • インフラ開発支出の管理及び抑制
  • 貧困層への経済支援
  • 民間部門の活性化を目的とした国有企業向けの優遇税制や免税措置の撤廃

 

評価

 エジプトがIMFに融資枠の増額を求めた理由は、慢性的な外貨不足があるからだ。主要な外貨獲得源であった観光業がCOVID-19で経済的打撃を受けた後、2022年2月に始まったウクライナ危機以降、ロシア人及びウクライナ人観光客の減数が観光収入の伸び悩みにつながった。また、ウクライナ危機に伴う世界的な食料価格の高騰がエジプトの外貨準備高の減少に拍車をかけた。こうした中、ガザ情勢悪化の余波により、天然ガス輸出収入や、スエズ運河の通航料収入も減少したことで、外貨不足が深刻化した。このため、今回のIMF融資枠の増額がエジプトの外貨不足危機を一時的に緩和するとの期待が寄せられている。

 今般、エジプトが融資条件である一連の経済改革を実行できた背景には、アラブ首長国連邦(UAE)から金融支援を得られたことがある。エジプトとUAEは今年2月、地中海沿岸の町ラアス・ヒクマでのリゾート開発に向けて、総額350億ドルの契約に調印した。同契約では、アブダビ首長国の政府系「アブダビ開発持株会社(ADQ)」が開発権取得のためエジプトに240億ドルを支払う。また、エジプト中央銀行下にある同社の預金110億ドルのうち、50億ドルがエジプトに譲渡され、残り60億ドルがエジプトの他事業に投資される見通しである。こうして、エジプトはUAEの大規模な先行投資を通じて外貨を獲得したことで、通貨切り下げや金利引き上げに踏み切ることが可能となった。

 UAEの対エジプト経済支援は開発プロジェクトへの投資の他、両国中銀間の通貨スワップ協定や、UAEによるエジプト国有企業の株式取得にも及んでおり、エジプト経済のUAE依存が顕著となっている。経済の安定化を優先するシーシー政権にとって、UAEとの経済協力が頼みの綱になっているため、今後もUAEによるエジプトの土地及び企業購入が加速していくだろう。

 

【参考】

「エジプト:UAEとの通貨スワップ協定」『中東かわら版』No.89。

「エジプトの対UAE関係 ――経済支援と東アフリカ情勢での競合――」『中東分析レポート』No.R23-04。※会員限定

(主任研究員 高橋 雅英)

◎本「かわら版」の許可なき複製、転送はご遠慮ください。引用の際は出典を明示して下さい。
◎各種情報、お問い合わせは中東調査会 HP をご覧下さい。URL:https://www.meij.or.jp/

| |


PAGE
TOP