中東かわら版

№179 イラン:国会議員選挙の実施とその意味

 2024年3月1日、イラン全国31州で、第12期イスラーム議会(国会)選挙が、第6期専門家会議選挙とともに実施された。国会は290議席(一院制、任期4年間。この内、5議席は宗教少数派枠)、専門家会議は88人の枠をかけて争われる。

 ワヒーディー内相は4日、今次選挙で有権者約6100万人の内2500万人が投票所に足を運び、投票率は41%だったと発表した。前回選挙の投票率は42.57%で過去最低だったが、今次選挙ではそれを更に下回った(図表1)。また、同内相は、白票(無効票)数は全体の5~8%と発表した。3月3日付『ISNA通信』(改革派寄り)は、州別で最多投票率を記録したのは64.27%の南西部コフギールーエ・ブーエルアフマド州で、最低投票率は28.4%の中央部アルボルズ州だったと報じた。同記事によると、首都テヘランの投票率は34%(最下位から3番目)で、人口第3位の都市エスファハーンの投票率は37.4%(最下位から5番目)だった。

 

図表1 イランにおける国会議員選挙の投票率の推移(1980~2024年)

(出所)3月4日付『BBCペルシャ語放送』を元に筆者作成。

 

 得票の内訳に関し、最も多く得票したのは保守派(オスールギャラー)で、290議席の内168議席(58%)を占めた。改革派(エスラーフタラブ)は33議席(11%)、独立/不明は41議席(14%)、宗教少数派は5議席(2%)、そして今回は選出されず第2回投票で決定される議席数は44議席(15%)だった(3月2日付『ISNA通信』記事に基づき筆者集計。なお、保守派/改革派は候補者が表明するものではないため分類によって変動し得る。図表2)。暫定的な数値のため、内訳に変動が生じる可能性はあるが、おおよその計算では保守派が国会の概ね3分の2を占めることになる。第2回投票は本年4~5月にかけて行われる予定である。

 

図表2 得票の内訳(概算)

 (出所)3月2日付『ISNA通信』記事に基づき筆者作成。

 

評価

 今次選挙は、監督者評議会によって有力候補者が軒並み失格にされた大統領選挙(2021年)、ヒジャーブ強制着用に対する反体制デモ(2022年)を経て、ライーシー政権への信任投票の意味合いがあった。最も注目すべきは、投票率が過去最低を記録したことであろう。前回選挙(2020年)においては、新型コロナウイルスが蔓延し始めた中で行われたこともあり、選管当局はコロナ禍で投票率が低迷したと弁解した。しかし、コロナ禍が明けた今次選挙では、その投票率を更に下回ることとなった。有権者の政治不信が深刻化したことの証左と見てよいだろう。

 もう一つの注目点は、無効票の多さである。ワヒーディー内相によれば無効票は全体の5~8%であり、かなりの数の有権者が投じたことになる。実際、テヘランやエスファハーン等の都市部の中間層では選挙不参加の傾向が顕著だった。これらには、現体制に否を突き付ける意味合いがあっただろう。これと関連し、前回選挙では第2回投票に決選の場を移した議席は11だったが、今回は大幅に増加した。規定では、第1回投票で各選挙区における総投票数の25%を獲得しない候補者は、第2回投票に進まなければならない。各選挙区での無効票があまりにも多かったために、規定を満たせない候補者が続出した可能性がある。

 今次選挙でも事前の資格審査で、体制の意にそぐわない多くの候補者が失格とされた。もとより、完全に自由で公正とは言い難い選挙に辟易とする有権者の存在は、前回選挙(2020年)で既に顕在化していた。この意味では、今次選挙が「保守派の圧勝」であることは間違いないが、それは過去の経緯を踏まえ、今回もまた有権者が体制への不信感の表明をしたが故といえよう。ライーシー政権が国民から信任を得たとは言い難いのが実状だ。

 

【参考】

「イラン第11期国会議員選挙の結果とその影響――有権者の投票行動に着目して――」『中東分析レポート』R19-12、2020年3月25日。※会員限定。

(研究主幹 青木 健太)

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