中東かわら版

№178 パレスチナ:PAのアシュティーヤ内閣が総辞職

 2024年2月26日、パレスチナ自治政府(PA)のアシュティーヤ内閣が総辞職した。辞職したムハンマド・アシュティーヤ首相はファタハの中央委員会(注:ファタハの最高決定機関)委員を務めている。なお、アシュティーヤ内閣は、後任の組閣が済むまで職務を継続する。次期内閣は、専門家からなる実務的な内閣となることが期待されているが、これはPAの改革を求めるアメリカなどの要求に応えるとともに、ハマースからも原則的な合意を得た方針である。

 消息筋は、ハマースは現在ガザ地区の統治を望んでおらず、同派は国際的に承認され、治安維持・再建・経済状況と住民の生活水準の回復が可能な専門家からなる政府を通じたガザ地区の救済を望んでいると述べた。ただし、この消息筋によると、ハマースは閣僚選任とそれへの同意で明確な役割を果たすことと、新内閣の役割とその基盤となる挙国一致、ハマースのパレスチナ解放機構(PLO)加盟手続きの完了、(立法評議会などの)選挙の実施についての合意を求めているとも述べた。

評価

 PAの与党であるファタハとハマースが決裂した2007年以来、PAとその下で編成された歴代の内閣の権限はガザ地区に及んでいない。このため、2023年10月7日以来の戦闘でもPAは外交場裏での活動を除き、事態の推移や停戦・人道援助の搬入などで中心的な役割を果たすことができなかった。このPAを改革・強化・再編して現在の戦闘が終結した後のガザ地区を管理させる案は、アメリカなどが期待しているものだ。現在、新内閣の首相候補には、ムハンマド・ムスタファー元経済担当副首相、サラーム・ファイヤード元首相、ナーシル・キドワ・ファタハ中央委員会委員らの名前が挙がっており、アメリカからの同意やハマースとの最終的な合意の後、アッバース議長が首班指名をする見通しである。

 ただし、これまでPAはイスラエルによる封鎖やユダヤ人入植者による侵害行為などに有効な対策を講じることができていない。そのようなPAが現在の戦闘の停止とPAによるガザ地区の管理をイスラエルに受け入れさせる、ハマースなどのパレスチナ諸派との間に広汎な合意を形成する、国際的な保証のもとでガザ地区などの復興に取り組む、などの重要課題を解決しなくてはならないため、どのような内閣が編成されたとしても前途は困難なものとなるだろう

(協力研究員 髙岡 豊)

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