中東かわら版

№175 シリア・ヨルダン・イラク・レバノン:麻薬対策に関する四カ国内相会合開催

  2024年2月17日、アンマンにてヨルダン、シリア、イラク、レバノンの四カ国の内相が出席する会合が開催された。会合は麻薬対策をはじめとする地域的な課題に対処するための協力を協議するためのもので、参加国は麻薬に関する情報や積み荷を追跡するための連絡班を設置することで合意した。

 シリア紛争を経て、シリアからヨルダンやイラクを経由したアラビア半島に流入する麻薬の問題は、関係国に深刻な社会問題をもたらした。この問題は、2023年5月にシリアがアラブ連盟に復帰する際にも「国境の治安問題」としてシリアの軍・治安機関と隣接国の軍・治安機関との連携を促進するための実効的措置をとる、という形で提起されていた。これを受け、2023年7月には麻薬密輸対策での協力のためのシリア・ヨルダン合同委員会が開催され、8月には両国合同の摘発作戦が実施された。しかし、その後もヨルダンに潜入する密輸業者とその摘発事案は後を絶たず、2023年末から2024年初頭にはヨルダン軍がシリア領内の麻薬生産・貯蔵拠点を空爆する事案が相次いで発生した。このうち、2024年1月18日のシリア南部のスワイダ県での爆撃については、爆撃で民間人の女性や子供が死傷したことから、シリアの外務省が「麻薬密輸対策を口実に行われている空爆に正当性はない」との声明を発表していた。

評価

 シリア紛争を通じ、シリア領内では反政府・親政府・イスラーム過激派など様々な非国家武装主体(民兵)が跋扈した。その一部には、政治的な目的に関心を示さず、密輸、麻薬取引、身代金目当ての誘拐、略奪を主な活動とするものもあったと考えられている。しかも、ヨルダン政府はシリア側で麻薬取引に関与している集団をレバノンのヒズブッラーやイランに与する民兵と主張しており、この問題は麻薬や周辺国の外交関係にとどまらず、アメリカやイスラエル、イランをも含む地域の安全保障問題の一端をなす。一方、シリア側には麻薬対策を関係改善の前提とする一部のアラブ諸国に対し、シリア紛争で各種民兵を支援してシリア国内の社会基盤や経済を破壊し、麻薬問題深刻化の責任の一部を負うにもかかわらずその点に触れようとしないとの不満も強い。シリアの報道でも麻薬の摘発は相応の頻度で報じられているが、ヨルダンをはじめとする関係国がシリア側での麻薬取引を政権関係者、ヒズブッラー、イランが関与する事業であると信じている中で国際協力を通じた抜本的な解決に至る見込みは乏しいといえる。

 また、問題を複雑化しているのは、かつて「自由シリア軍」を名乗りヨルダン、アラビア半島の諸国、欧米諸国から「革命の担い手」とみなされていた民兵諸派の中にも、シリア・ヨルダン間の麻薬取引に関与している民兵が存在する可能性が高いことだ。例えば、2023年3月末にアメリカ政府が錠剤麻薬の「カプタゴン」の製造・密輸に関与した者を制裁対象に指定した際、対象者にはアサド大統領の縁者や政権関係者だけでなく、元「自由シリア軍」幹部も含まれていた。シリア南部の諸県では、2018年ごろに反政府民兵諸派と政府との「和解」の過程で「自由シリア軍」を名乗っていた諸派も含む民兵が正規軍の指揮下に統合される措置が取られた。麻薬の製造や密輸は、10年以上続いているシリア紛争の中長期間かけて形成された設備や取引網を通じて営まれていると思われるため、「自由シリア軍」の民兵がシリアの正規軍の統制下に入ったことにより生業を麻薬取引に転換したとは考えにくい。従って、本件には麻薬対策、シリアと周辺諸国との関係、民兵の活動をめぐるより広域な国際関係の問題としての性質に加え、シリア紛争の諸当事者の活動や属性を評価する上での多重基準の問題としての性質もあると考えることができる。

(協力研究員 髙岡 豊)

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