中東かわら版

№176 トルコ:エルドアン大統領のエジプト公式訪問で雪解けの兆し

 2024年2月14日、エルドアン大統領はエミネ夫人と共にエジプトのカイロを公式訪問し、空港でシーシー大統領夫妻の出迎えを受けた。その後、大統領宮殿で歓迎式典が開催され、首脳会談と代表団会合が行われた。

 エルドアン大統領は、シーシー大統領との会談において、ガザの状況が最重要議題であると述べ、ネタニヤフ政権は、ガザ住民にとって最後の避難所であるラファフまで虐殺を拡大させてはならないと強調した。エルドアン大統領は、トルコの優先事項は一刻も早い停戦の成立及び、ガザへの速やかな人道支援実施であると語り、ガザからの患者移送に際したエジプト当局の努力に謝意を表明するとともに、同地で野戦病院の設立を目指すトルコへのエジプト側の協力に期待を表明した。

 また両首脳は、リビア、スーダン、ソマリアの問題についても協議し、エルドアン大統領は、トルコは同3カ国の政治的統一、領土保全、平和を全面的に支持すると述べ、地域の平和と安定のために、あらゆるレベルでエジプトとの接触の機会を増やしていく旨付言した。

 一方、シーシー大統領は、ガザ情勢の他、両国の懸案事項でもあるリビアについて言及し、同国の議会・大統領選の実施と、軍事組織の統一を支援するため、エジプト・トルコ間の協議を強化する必要性を強調した。さらに、経済関係の強化、特に貿易に関して今後5年間で二国間貿易額を150億ドルまで引き上げることを目標としていると述べた。

 終了後、両大統領は政治、安全保障、貿易、文化等、幅広い分野での協力関係を再構築する共同宣言に署名した。今後は同共同宣言に基づき、2年ごとにトルコとエジプトで交互にハイレベル戦略協力会議を開催し、同会議においてエルドアン、シーシー両大統領が共同議長を務めることが決定した。

  

評価 

 トルコ大統領のエジプト訪問は2012年以来、約12年ぶりとなった。東地中海の南北に位置する両国の関係は、地域の平和と安定にとって常に重要であるが、2013年にシーシー政権が発足して以降、トルコとエジプトは政治的な断絶状態にあった。

 今般のエルドアン大統領の公式訪問は、長期にわたり険悪だった二国間関係を大きく前進させるものといえるだろう。他方、雪解けの気配があるとはいえ、両国の関係は信頼の上に成り立っている、とまでには至っておらず、相手の出方を伺うような状況にあることも事実である。そうしたなかで、二国間関係は新たな段階へと踏み出そうとしている訳ではあるが、その理由は、トルコ・エジプトともに実利的な理由に基づいていると考えられる。トルコは、エジプトに関するイデオロギー的な方向性の相違を脇に置き、現実的な外交政策を追求することで、経済・貿易関係で道を切り開こうとし、一方のエジプトは、経済発展させることでシーシー政権の統治体制を、より強固なものにさせたいとの思いがあるのではないだろうか。

 停戦の糸口が見えないガザ情勢についても、両国間には意見の相違がある。中東和平に関してこれまで主導的な立場を取ってきたエジプトは、パレスチナ問題に特別な関心を持っており、同問題に対するトルコの過剰な介入を牽制してきた。特に、トルコがハマースと関係を持ち、ハマースとエジプトを含む他のあらゆる国との橋渡し役や仲介役であると主張していることが、この不満を高めている。エジプトは他の多くのアラブ諸国と同様、同胞団のパレスチナ支部であるハマースの活動を禁止している。とはいえ、過去の経緯からハマースとのチャンネルは保持しており、会談する際にトルコのような仲介者を必要とする立場にはない。

 今後、両国はこうした相違点から共通点を見出す作業をしていかなければならないが、実利主義者同士の首脳の下で、両国の国益に適う経済関係を中心に前向きな機運は、継続するものと考えられる。

 

(主任研究員 金子 真夕)

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