中東かわら版

№169 トルコ:エルカン中央銀行総裁が辞任を表明

 2024年2024年2月2日、ハーフィズ・ガイェ・エルカン中央銀行総裁は、自身のSNSで辞任を発表した。これを受けてエルドアン大統領は、2月3日付の官報32449号大統領令26号においてエルカン総裁を「解任」し、新総裁に現中央銀行副総裁のファーティヒ・カラハン氏を任命した。

 エルカン総裁は辞任の理由を、自身に対するネガティブ・キャンペーンが組織されており、幼い子供を含む家族を守るためだとして、エルドアン大統領に役職からの赦免を要請したと述べた。

 辞任発表を受け、シムシェキ国庫・財務相(財務相)はエルカン氏の決断は「純粋に個人的なもので、エルカン氏自身の裁量よるものであり、この決断を尊重する」とし、新総裁にカラハン氏を推薦したと語った。

 2月4日、新総裁に就任したカラハン氏は、中銀の主な目的と優先事項は物価の安定であると強調し、インフレ率が目標値と一致するまで必要な金融引き締め策を維持していくと表明した。カラハン新総裁は、2月8日に今年初のインフレ報告書の内容を説明する予定となっている。

 エルカン氏の辞任発表を受け、トルコ・リラは0.5%安の終値1ドル=30.4887リラとなり、最安値を更新した。

 

評価 

 エルカン氏は、2023年6月8日に女性初の中銀総裁に任命され、シムシェキ財務相とともに、「合理的な経済政策」を牽引してきた。在任中の約9カ月間で外貨準備高の増加、インフレ率の抑制などに取り組み、国内の経済状況はわずかながら前向きな方向へと進展していたように見える。

 その一方で、エルカン氏をめぐっては、中銀がアンカラからイスタンブルに移転以降、様々な疑惑が取り沙汰されるようになった。一つは父親の介入である。中銀のプロトコール・オフィサーが、エルカン氏の父親から家族の世話をするよう求められ、これを拒否したところ、解雇されたと大統領府通信局に訴えたことがメディアで明らかとなった。これに対し、エルカン氏は「根拠がなく意図的なものである」と否定したが、他にも父親を含むエルカン一族の中銀業務への介入や便宜供与疑惑が報じられており、世論は同氏に対して懐疑的になっていた。

 また、2023年12月16日にエルカン氏が『ヒュリエット』紙のジャーナリストと対談したことも、辞任に追い込まれた要因の一つとされる。同インタビューでエルカン氏は、一部の外国人投資家への助言や選挙後の緊縮財政についてオフレコでコメントしていると発言したが、こうした行為は、シムシェキ財務相やエルドアン大統領への越権行為にあたると指摘された。

 経済改革を推進しているさなかに、中銀総裁の周辺で立て続けに疑惑が持ち上がったことは、中銀の信頼性を揺るがしかねない。表向きは辞任という格好であるものの、こうした状況を懸念するシムシェキ財務相が、エルドアン大統領にエルカン氏の解任を進言したとしても不思議ではない。

 統一地方選挙を3月31日に控えるエルドアン政権にとって、経済復興は重要な柱の一つである。一連の騒動には、エルカン氏を解任することで早々に幕引きを図り、選挙に専念したいとの政権側の意図も垣間みえる。

 

(主任研究員 金子 真夕)

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