中東かわら版

№167 トルコ:イスタンブルの聖マリア教会襲撃事件で「イスラーム国 トルコ州」が犯行声明

 2024年1月28日、午前11時40分、イスタンブルのブユックデレ地区にある聖マリア教会が、覆面をした2人組の男に襲撃された。2名は礼拝中の信徒に向けて発砲し、1名が死亡、複数名が負傷した。事件発生後「イスラーム国 トルコ州」は犯行声明を発出した(「イスラーム国 トルコ州」が声明を発表するのは2019年7月以来となる)。

 イェルリカヤ内相は、事件発生直後の声明で、犠牲者遺族へ哀悼の意を表するとともに、犯人の早期逮捕に向けてイスタンブル治安当局が捜査を開始したと明らかにした。また、トゥンチ法相は、同事件を強く非難したうえで、イスタンブル最高検察庁の副最高検察庁長官と検事2名が同事件を担当し、襲撃を実行した容疑者の特定と逮捕に向けて多面的かつ綿密な捜査を行っていると表明した。

 その後、治安当局が特定した30カ所で家宅捜索が行われ、47人の身柄を拘束した。さらに、発生からおよそ12時間後の22時に、実行犯とみられる2名を逮捕したと発表した(※1月30日現在、身柄拘束者は51名)。イェルリカヤ内相は、逮捕された2名はいずれも外国籍(タジキスタンとロシア)の男で、「イスラーム国」のメンバーであるとの見方を示した。また、今後、実行犯とみられる2名及び、拘束者らからの事情聴取によって事件の全容解明を急ぐと述べた。

 政府は、これまでもあらゆる形態のテロリズムとの戦いを強調してきた。内務省は、2023年6月1日以降、「イスラーム国」に関連する計1046回の捜査で2089名を拘束し、うち529名を逮捕したことを明らかにした。直近となる2023年12月29日には、国内9県で、国家情報機関(MIT)及び、治安部隊による合同捜査を行い、イスタンブル市内の教会やシナゴーグ攻撃を準備していた容疑で、「イスラーム国」のメンバー29名を拘束している。

 

評価 

 今般の襲撃事件の背景や理由については現時点で分かっておらず、イェルリカヤ内相の発言通り、全容解明に向けては、逮捕された襲撃実行犯や関係者からの聴取が待たれる。

 一方、トルコ国内では、事件発生以降、SNSを中心に聖マリア教会の他、ファーティヒ・モスクも襲撃されたとの情報が流布された。こうした状況を受けて、ギュル・イスタンブル知事は、そのような事実はないとしたうえで、公式発表以外の情報を鵜呑みにせず、不用意な拡散を避けるよう呼びかけるなど、事態の鎮静化を迫られた。

 また、事件発生当時、在ポーランド総領事が家族と共に礼拝に参加していたことも明らかになっており、エルドアン大統領は、移動中の機内で聖マリア教会の司祭及び、レスニアク・ポーランド総領事にそれぞれ架電し、お見舞いと犯人の早期逮捕の見通しを伝達した。

 今回の事件は、イスタンブル中心地のイタリア系のカトリック教会が標的とされたことに加え、外国高官も現場で事件に遭遇する等、対応次第では外交問題へと発展しかねない状況にあった。このようななか、発生からわずか12時間で犯人逮捕に至ったことは評価できるだろう。

 政府はテロとの戦いを掲げ、イラクやシリア北部での越境軍事作戦を継続している他、治安部隊や情報機関の捜査を通じて、国内のテロ攻撃を未然に防ぐ取り組みを強化している。

 その結果、国内でのテロ攻撃が頻発した2014~15年当時と比べ、国内での事案は大幅に減少し、治安は安定してはいるものの、PKK、「イスラーム国」等によるテロ攻撃は断続的に発生している。当局は国境及び、国内の治安管理に一層、注力していくものと思われるが、強硬姿勢が更なるテロ攻撃を引き起こす可能性も否定できない。

(主任研究員 金子 真夕)

◎本「かわら版」の許可なき複製、転送はご遠慮ください。引用の際は出典を明示して下さい。
◎各種情報、お問い合わせは中東調査会 HP をご覧下さい。URL:https://www.meij.or.jp/

| |


PAGE
TOP