中東かわら版

№163 イラン:ハーメネイー師がイスラーム諸国にイスラエルとの政治・経済関係の断絶を呼びかけ

 2024年1月23日、ハーメネイー最高指導者は演説の中で、イスラーム諸国に対して、イスラエルとの政治・経済的関係を断絶するよう呼びかけた。同師の発言概要は以下の通り。

 

*イスラーム諸国高官の掌中にある問題は、シオニスト政体(注:イスラエル)に流れる重要な動脈を断つことである。イスラーム諸国は、シオニスト政体との政治・経済的関係を断絶すべきであり、この体制を助けてはならない。

*イスラーム諸国高官の不適切な行動やあらゆる困難にもかかわらず、クルアーンに下された通り、神は信心深い人民とともにあり、神が存在する場所には勝利が訪れる。

*ガザ人民の勝利は確実である。そして、全能なる神はこの勝利を、そう遠くない将来にウンマ(イスラーム共同体)にもたらされ、パレスチナとガザの人民は喜ぶだろう。

 

評価

 ハーメネイー師は、10月7日のガザ危機勃発以降、イスラーム諸国に対してイスラエルと政治的関係を断ち、エネルギー・生活物資等の流れを遮断するよう呼びかけてきた。今次発言は、この流れに沿うものであり、イランが一貫してイスラエル包囲網を敷こうと試みていることを示している。同師が反イスラエル発言を繰り返す背景には、イラン国内で体制への支持を固めたいとの対内的狙いと、反イスラエルを掲げることで国際・地域関係における自国の立場を優勢にしたいとの対外的狙いが挙げられる。

 こうした中、今次発言が、イエメンのアンサール・アッラー(通称フーシー派)がイスラエル関連船舶への攻撃・妨害行動を強める中でなされた点が注目される。同派はガザ危機が勃発してからイスラエルへのエネルギー・生活物資の供給を途絶すべく同国関連船舶への攻撃を行っており、それに対し、米英が2024年1月11日と22日の2回、イエメン北部を空爆した。ハーメネイー師の掲げるイスラエル包囲網強化方針は、アンサール・アッラーの主張と相似しており、イランとアンサール・アッラーの共闘関係が疑われる。イランが同派をどれ程支援しているのかは、今後の情勢を推し量る上で重要である。イランがアンサール・アッラーが派遣する「大使」を受け入れたり、双方の間で要人往来が不定期に行われたりするなど、イランが政治的後ろ盾となってきたことは否定できない事実である。また、米中央軍が1月11日、イランがダウ船(伝統的な帆船)を利用してアンサール・アッラーに兵器を輸送していると押収物資の写真付きで公開するなど、水面下では軍事支援もなされている模様である(注:イラン側は否定)。即ち、イランと同派との間には密接な政治・軍事・経済的関係の存在が看取される。他方、イランは、各地の抵抗勢力はイスラエルの戦争犯罪に対して自発的に蜂起しているのだと主張している。このイランの論法に従えば、イスラエル・米国権益に対する抵抗勢力諸派による攻撃の責任はその実行主体、すなわち抵抗勢力の側にあることになる。この巧妙な論法が崩れない限り、米国やイスラエルがイランに対して、国際的に正当な形で軍事力を直接行使することは難しいだろう。このため、偶発的な事故などを除けば、米・イスラエルと、イランの「代理勢力」と呼ばれる非国家主体との間での低烈度の衝突が繰り返す状況が続く可能性が高いといえる。

 

【参考】

「イエメン:米英がイエメン北部のフーシー派拠点に攻撃開始」『中東かわら版』No.154。

「イラン:対イスラエル包囲網の強化を主張」『中東かわら版』No.129。

(研究主幹 青木 健太)

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