中東かわら版

№161 イラン:パキスタンがイラン領内に報復攻撃

 2024年1月18日、パキスタンはイラン領内に越境攻撃を行った。18日付パキスタン外務省及び軍統合広報局声明によれば、今次攻撃はイラン南東部シースターン・バローチスターン州内のバローチスターン解放軍(BLA)とバローチスターン解放戦線(BLF)の隠れ家に対し、無人機及びロケット弾を用いて行われた。イランのワヒーディー内相は、イラン・パキスタン国境付近の村サラーバーンで発生したこの攻撃により、外国籍の人物9人(男性2人、女性3人、子ども4人)が死亡したと発表した。この他、家屋4棟が破壊された模様である。イラン外務省は、駐イラン・パキスタン臨時代理大使を呼び出し、説明を求めるとともに、強く抗議した。

 これに先立つ16日、イランはパキスタン領内にあるジェイシュ・アル・アドルの拠点に越境攻撃を実行した。同事件を受けて、パキスタン外務省は、同国駐イラン大使の召還を決めた他、イラン国内に滞在中の駐パキスタン・イラン大使の入国を認めず、また当面の全てのハイレベル協議を休止すると発表するなど、二国間関係が悪化していた。

 

評価

 イラン・パキスタン間でミサイルの応酬が行われることは異例であり、緊張の高まりが懸念される。今次事案が発生したきっかけは、イランが外部から受けた攻撃に対して復讐を図ったことである。15~18日にかけて、イランは、シリア、イラク北部、及び、パキスタンの3カ国に越境攻撃を仕掛けた。それぞれ、「イスラーム国」による攻撃(1月3日)、イスラエルによる革命防衛隊幹部暗殺(12月25日)、及び、ジェイシュ・アル・アドルによる警察襲撃(12月15日)への報復に当たる。イランが支援する非国家主体に対する攻撃はこれまでも頻発してきたが、これら勢力はイスラエルに対して自発的に抵抗しているとイランは主張してきた。一方、一連の攻撃は、イランに対する直接的な打撃であることから、イランとしては自国民向けにも、またイスラエルやテロ組織が同様の攻撃を繰り返さないためにも、実際の軍事行動を取り威信を示す必要があった。核保有国パキスタンを巡る衝突を警戒すべきだが、イランはイスラエルとの対立の只中にあり、パキスタンも東側に位置するインドと敵対する中、両国が事を構えて戦力が分散されることはお互い不利に働く。両国は声明でも事態の鎮静化を望む旨を表明していることから、今後、外交ルートを通じた話し合いで矛を収める可能性がある。他方、偶発的な事故が事態をエスカレートさせる危険性は常にあり、注意が必要である。二者と良好な関係を有する中国等の第三国仲介の行方はもう一つの注目点だ。

 

【参考】

「イラン:パキスタンに越境攻撃を実施」『中東かわら版』No.159。

「イラン:革命防衛隊がイラク北部クルディスタン自治区とシリアに越境攻撃を実施」『中東かわら版』No.158。

(研究主幹 青木 健太)

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