中東かわら版

№158 イラン:革命防衛隊がイラク北部クルディスタン自治区とシリアに越境攻撃を実施

 2024年1月16日、革命防衛隊は、イラク北部クルディスタン自治区とシリアに弾道ミサイルを用いた攻撃を実施したと発表した。16日付『メフル通信』(イスラーム宣伝庁系)は、15日深夜に「スパイ本部とテロリスト集団の集会」に対して弾道ミサイルを発射したとしつつ、概要以下の通り2つの個別声明を発表した

 

シリアへの攻撃

  • イスラーム革命防衛隊は、最近のケルマーンとラースクで発生したテロリスト集団による親愛なるイランの同胞に対する犯罪行為への報復として、特にダーイシュ(注:「イスラーム国」の通称)をはじめとするテロリストによる作戦に関連した司令官と構成員が集う本部を、シリアにおける占領地に対する弾道ミサイル攻撃で破壊した。
  • イスラーム革命防衛隊は、テロリスト集団がどこにいようとも見つけ出し罰を加えると、偉大なるイラン国民に対して保証する。

 

イラク北部クルディスタン自治区への攻撃

  • イスラーム革命防衛隊は、シオニスト政体(注:イスラエル)による最近の革命防衛隊司令官と抵抗勢力の殺害への報復として、イラクのクルディスタン地区にあるシオニスト政体のスパイ(モサド)本部を弾道ミサイルで攻撃した。この本部はスパイの作戦立案の中心であり、この地域、特にイランに対するテロ行為の計画を行っている。
  • イスラーム革命防衛隊は、殉教者の血の最後の一滴の復讐が果たされるまで攻撃を続けると、親愛なるイラン国民に保証する。

 

 革命防衛隊運営テレグラムチャンネルでは、シリアへの攻撃はイドリブ県近郊で実施されたこと、イラク北部クルディスタン自治区エルビルへの攻撃においてはビルが粉々に破壊されたこと、弾道ミサイル発射はともに夜間に行われたこと等が現場写真とともに伝えられた。

 

評価

 今次攻撃は、イランがシリア・イラクに越境攻撃を仕掛けた点で、その影響が懸念される。声明を見る限り、革命防衛隊のシリアへの攻撃は、南東部シースターン・バローチスターン州ラースクへの襲撃事件(2023年12月15日発生、11人死亡、ジェイシュ・アル・アドルが犯行声明)、及び、南東部ケルマーン州での攻撃(2024年1月3日発生、84人死亡、「イスラーム国」が犯行声明)に対する復讐との位置づけで実施されたと見られる。また、同隊のイラク北部クルディスタン自治区への攻撃は、革命防衛隊幹部の殺害(2023年12月25日、シリア領内で発生)に対する報復との位置づけと見られる。これらの事案後、イラン体制は厳しい対応を必ず行うと言明していた。今次攻撃は、これらが実行に移されたものに相当するが、夜間に実行されたこともあってイスラエルへの実害は大きくなかった。このため、イラン側に、戦線を拡大しようとの意図は見られない(但し、イラクへの攻撃では民間人複数名が死傷したと報じられている)。両声明にイラン国民向けのメッセージがあることから見ても、同国民向けに「報復を果たした」と言える実績作りのために行われた側面が強いといえよう。

 他方で、気になるのは、15日付『エルサレム・ポスト』(イスラエル英字紙)が、革命防衛隊によるエルビルへの攻撃で、同地の米国領事館が攻撃を受けたと報じている点である。現時点において情報は錯綜しており、イスラエル発の情報が誤りである可能性もある。今後、より詳細な被害状況が明らかになると思われるが、イランの攻撃で米国権益に実害が生じていたり、今後イスラエルによる革命防衛隊幹部の暗殺が続いたりすれば、緊張が嵩じる可能性もあり、過度な楽観視は控えるべきである。

 

【参考】

「イラン:ソレイマーニー司令官4周忌式典で爆発、「イスラーム国」が犯行声明を発出」『中東かわら版』No.151。

「シリア・レバノン:イスラエルによるイランの革命防衛隊幹部暗殺の波紋」『中東かわら版』No.150。

(研究主幹 青木 健太)

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