中東かわら版

№159 イラン:パキスタンに越境攻撃を実施

 2024年1月16日付『タスニーム通信』(革命防衛隊系)は、パキスタン領内にあるジェイシュ・アル・アドルの重要拠点2カ所が、ミサイルと無人機によって破壊されたと報じた。同記事によれば、攻撃を受けたのはパキスタン南西部バローチスターン州のクーフ・サブズと呼ばれる地区で、ジェイシュ・アル・アドルの最大の拠点の一つである。パキスタン外務省は17日に声明を発出し、イランからパキスタンに対する越境攻撃が行われたことを認めた。同声明は、イランの行動はパキスタンの領空侵犯であり、無辜の子ども2人が死亡し少女3人が負傷した、パキスタンの主権への侵害は到底受け入れられず、深刻な影響を及ぼすだろうと述べた。革命防衛隊系テレグラムチャンネルは、今次攻撃による映像として、破壊されて燃える家屋の映像を伝えた(現時点で、同映像が、今次事件のものかは検証されていない)。

 ジェイシュ・アル・アドルは16日付声明において、革命防衛隊が複数の自爆型無人機とミサイルを用い、バローチスターン州の国境付近の山岳地帯で同組織の戦闘員を攻撃し、子ども2人が死亡、女性3人が死亡したと発表した

 

評価

 今回標的とされたジェイシュ・アル・アドルとは、イラン南東部とパキスタン南西部の国境付近で活動するスンナ派過激主義組織で、イランからの分離独立を主張する他、イラン南東部シースターン・バローチスターン州で散発的に攻撃を実行してきた経緯がある。直近では、同組織は、2023年12月15日に同州ラスク警察本部を襲撃し、警察官11人を殺害したばかりである。2024年1月16日付の革命防衛隊声明には、ラースクで発生した攻撃に報復するとの文言があったことから見て、今次攻撃がそれに相当する可能性が高い。イランとしては可能な限り精密な攻撃を実行した模様であり、事態をエスカレートさせる意思を有するようには見えないことから、地域情勢への影響は限定的だろう。

 他方、展開を見る上で、主権を侵害されたパキスタンの対応が重要である。パキスタン外務省は声明で、今次の不法行為は、パキスタンとイランとの間に複数のチャンネルが存在するにもかかわらず行われたとして、イラン政府に強く抗議した旨発表した。最近、パキスタンのジラーニ外相がゴミー駐アフガニスタン・イラン大使(15日)と、カーカル首相がアブドゥルラヒヤーン外相(16日)と個別に会談しており、これらの会談でイランから事前通達がなされた可能性はあるが、いずれにせよパキスタンとしては自国民向けにも強硬な姿勢を示す必要に迫られる。

 

【参考】

「イラン:革命防衛隊がイラク北部クルディスタン自治区とシリアに越境攻撃を実施」『中東かわら版』No.158。

(研究主幹 青木 健太)

◎本「かわら版」の許可なき複製、転送はご遠慮ください。引用の際は出典を明示して下さい。
◎各種情報、お問い合わせは中東調査会 HP をご覧下さい。URL:https://www.meij.or.jp/

| |


PAGE
TOP