中東かわら版

№156 イラン:米英のイエメン北部空爆に対する反応

 2024年1月11日の米国と英国によるイエメン北部に対する空爆開始(『中東かわら版』No.154参照)を受けて、イランの参戦の可能性を含む、今次攻撃の波及が懸念される。こうした中、イランと米国政府高官の双方から概要以下のような反応が示された。

 

イラン政府高官の反応

  • イランのキャナアーニー外務報道官は12日、今次攻撃はイエメンの領土保全と主権及び国際法規の違反であり、地域の不安定化を助長するものだと強く非難するとともに、イスラエルがガザ地区に対する戦争犯罪を100日間以上続ける中において、米英は世界の人々の目をイスラエルの戦争犯罪から逸らそうと画策していると非難した
  • アブドゥルラヒヤーン外相は12日、ホワイトハウスはイエメンに空爆する代わりに、地域に安全を取り戻すため、ガザと西岸の人民と敵対するテルアビブとの軍事・安全保障協力を即時に停止するべきだとX(旧Twitter)に書き込んだ
  • ライーシー大統領はイエメン国民救済政府(アンサール・アッラー(通称フーシー派))のマシャート政治局長との電話会談(14日)の中で、米国によるイエメン人民への攻撃を反人権的な行動だとの認識を示した上で、米国による今次行動は世界から非難されるだろうと述べ、抑圧されるパレスチナ人民への支持はイランの根幹的な問題だとの認識を示した

 

米国政府高官の反応

  • バイデン大統領は12日、記者の質問に応え、「イランは我々(米国)との戦争を望んでいない」と発言した。また、同大統領は13日、米国はイランに対して私的なメッセージ(a private message)を伝達したと発言した
  • 国家安全保障会議のカービー戦略広報調整官は12日、「我々(米国)はイランとの紛争を望んでいない」と発言した

 

評価

 今次空爆がイランを巻き込むかが注目されるが、イラン政府高官の関連発言を眺めてみると批判のトーンは抑制的に留まっている。過去、革命防衛隊高官らが暗殺された際には、イランは激しい報復を誓ってきた。それらと比べ、今回、ハーメネイー最高指導者や革命防衛隊から現時点(2024年1月15日)までに反応が示されていない。こうした状況から見て、イランは、アンサール・アッラーの代わりに米英に報復するというような意思を現時点では有していないものと見られる。そもそも、今次空爆は、米英がアンサール・アッラーを標的として開始したものであり、イランを標的としたものではない。イランの立場としては、各地の抵抗勢力は、イスラエルによるパレスチナ人民抑圧に対し自発的に立ち上がっているとのものである。かかる状況下、イランが敢えて参戦する必要性は低いだろう。このため、構図としては、アンサール・アッラーがイスラエル関連船舶と米英への妨害・危害を継続し、それに対して米英が軍事的手段を用いて警告するといった応酬が続くと考えられる。

 さらに、米国もイランを巻き込む形での戦闘拡大を望んでいないと推測される。米政府高官の発言からは、米国はイランとの戦争を望んでおらず、イランもまた米国との戦争を望んでいないとの認識を有することが看取される。現状、イラン政府高官・メディアの反応は相当抑えめであることから、バイデン大統領がイランに送った「私的なメッセ―ジ」が事態のエスカレーションを望まない旨を伝え、その効果が現れている可能性があるだろう。

 もっとも、イラン・米国が直接対峙を志向しないからといって、域内の緊張が高くないわけでは決してない。むしろ、イランが背後から支援する「イランの民兵」によるシリア・イラクでの米国権益への攻撃や、アンサール・アッラーによるイスラエル関連船舶の航行を阻害する動きが活発化しているのが現状である。米兵への人的損害や、革命防衛隊高官の暗殺の続発など、予期せぬ「ボタンの掛け違い」が偶発的な事故を生む危険性は常に存在していることから、警戒を怠らないことが重要である。

 

【参考】

「イエメン:米英がイエメン北部のフーシー派拠点に攻撃開始」『中東かわら版』No.154。

(研究主幹 青木 健太)

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