中東かわら版

№153 イラク:政府が連合軍の撤退についての世論調査を開始

 2024年1月8日、イラク政府は、同国に駐留するアメリカが率いる連合軍の駐留継続に関する世論調査を開始した。この調査は、イラク人の携帯電話に質問事項のメッセージが送信される形で実施されるもので、この形態での世論調査としては初めてのものだ。調査では、「イラクの国際連同盟軍の任務継続を支持しますか」との質問と回答を返信するリンクからなるメッセージがイラク人の携帯電話に送信される。

 この調査は、イラクとアメリカとの関係が緊張する中で実施される。現在イラクでは、アメリカ軍が「人民動員隊」の一角をなす民兵諸派の施設や幹部に対し、2023年10月半ばから頻発しているイラクやシリアでのアメリカ軍基地への攻撃への反撃と称して攻撃を繰り返している。

評価

 イラク国内では、この調査について政府によるパフォーマンスに過ぎないとの見方があるようだ。一つは、イラク政府が「人民動員隊」諸派の機嫌を取るためだけに実施するとの見方であり、もう一つは調査結果が現実的な影響力を持たないという見方だ。さらに、調査自体が「イラク政府が重要な決定を独断で行うのではなく、世論に配慮している」との国内向けのメッセージだという評価もある。

 2023年12月以降、イラク政府はアメリカ軍がイラク国内で「人民動員隊」を攻撃することに反発を強めている。これは、「人民動員隊」の輩出母体となっている諸党派が、イラクでの(そしてシリアでも)アメリカ軍などの駐留の目的が表向き「イスラーム国」対策のための軍事作戦やイラクの治安部隊支援とされている一方、これらの部隊の実際の活動は当該地域でのイランや「親イラン民兵」の伸長防止に終始していることへの非難を強めていることを背景とする。イラクやシリアでは、2023年10月以来パレスチナでの戦闘に連動してアメリカ軍の施設が攻撃されており、「イラクのイスラーム抵抗運動」が攻撃を実行したと発表している。「イラクのイスラーム抵抗運動」は最近、イスラエルの都市やシリアのゴラン高原被占領地への攻撃を実行したとも発表しており、イラクでの政治・軍事的緊張が高まっている。

 イラクでのアメリカ軍駐留問題は、イラクでの世論調査の結果やイラク政府の決定だけで決まるものではない。従って、アメリカ軍のイラク駐留に直ちに影響が出るとは考えにくい。しかし、「人民動員隊」は単なる民兵ではなく、イラクの治安部隊の一部として法的な裏付けを持つ組織であり、その処遇や行動がイラク国内にとどまらない機微な問題だということも事実だ。

(協力研究員 髙岡 豊)

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