中東かわら版

№154 イエメン:米英がイエメン北部のフーシー派拠点に攻撃開始

 2024年1月11日、米国と英国がイエメンのアンサールッラー(通称フーシー派)関連施設への攻撃を開始したと報じられた。これは10月後半以降、アンサールッラーが「ガザ地区でイスラエルがパレスチナ人に犯罪行為を働いていることへの報復」と称し、紅海を航行する船舶の拿捕や攻撃を行ってきたことを受けたものである。バイデン米大統領は、商業航路での航行の自由を脅かす行動は許されないと、今次攻撃の理由を説明した。

 各報道によれば、標的となったのはイエメン北部、アンサールッラーの支配地域にある物流拠点、防空システム、武器庫であり、サナアの軍事基地、フダイダ空港近郊、サアダ県の複数地点が具体的な場所として挙げられる。人的被害については報告されていない。

 アンサールッラーの指導者、アブドゥルマリク・フーシー師は木曜日に演説を行い、紅海及び周辺海域を航行するイスラエル関連船舶(イスラエル船籍や、イスラエルに向かう船舶)の妨害を継続すること、米英及びイスラエルはユダヤ教徒・シオニストの手足であり、アラブ諸国は決してこれらの国と関係を持たないこと、レバノンでは同胞であるヒズブッラーが、イラクでは人民動員部隊がジハードに勤しんでおり、イエメンも可能な限り米英・イスラエルとの戦闘に加わわること、攻撃を受けたら必ず報復をすること等を訴えた。また米英による攻撃後にインターネット上で配信された同指導者名義のメッセージでは新たに、抑圧された人々のために戦うこと、戦うものたちを支持することが呼びかけられた。

 

評価

 アンサールッラーによる紅海での航行妨害は常態化しており、この約1カ月間を見ても以下表のような示威的行為が見られた。米英による今次攻撃は1月9日の米国籍船舶への攻撃に対する報復である。

月日

概要

12/13

イスラエルに向かっていたコンテナ船Maersk Gibraltarにドローンを発射

12/14

イスラエルに向かっていたコンテナ船MSC AlanyaとMSC PALATIUM IIIを攻撃

12/15

イスラエルのエイラートに向けて大量のドローンを発射

12/17

イスラエルに関連した船舶MSC ClaraとSwan Atlanticを攻撃

12/25

イスラエルに向かっていた商業船MSC UNITED、及びエイラートの軍事基地にそれぞれドローンを発射

1/3

イスラエルに向かっていた船舶CMA CGM TAGEを攻撃

1/9

イスラエルを支援する米国籍の船舶を攻撃

出典:アンサールッラーの発表を元に筆者作成

 一方、今次攻撃はアンサールッラー側に大規模な被害を与えるものではなく、米英も同派の殲滅を掲げているわけでもないことから、現時点では警告レベルの攻撃と判断できる。アンサールッラーはイスラエル関連船舶の妨害を今後も行うと明言しており、今次攻撃で同派が自制に向かう可能性は低いだろう。

 アンサールッラーにとってイスラエル関連船舶の妨害は、イランを中心とする「抵抗の枢軸」の一員であるとの自覚、連帯意識を育むための意味ある行為となっている(他の「抵抗の枢軸」がアンサールッラーに連帯意識を抱くかどうかは不明ながら)。またサウジアラビアとの戦争によって地域で孤立状態に陥った同派が、「パレスチナ支援」という大義を実践することで周辺アラブ諸国にプレゼンスを示すための貴重な手段ともなっている。米英による攻撃が警告レベルにとどまっている段階では、同派にとって米英との戦いは政治レベルに限れば得るものの方が多い状況にあるとも言えよう。

 

【参考】

「イエメン:フーシー派による紅海での航行妨害が常態化」『中東かわら版』No.141。

(研究主幹 高尾 賢一郎)

◎本「かわら版」の許可なき複製、転送はご遠慮ください。引用の際は出典を明示して下さい。
◎各種情報、お問い合わせは中東調査会 HP をご覧下さい。URL:https://www.meij.or.jp/

| |


PAGE
TOP