中東かわら版

№149 イスラエル:イラク・シーア派民兵によるカリシュ・ガス田攻撃の試み

 2023年12月22日、イラクのシーア派民兵「イラク・イスラーム抵抗運動」は声明を発出し、ガザの人々を支援し、イスラエルによる占領に抵抗するため、数日前に地中海にある重要な標的を攻撃した旨を主張した。これに対し、イスラエル国防軍(IDF)はレバノン領内の海上で、イスラエル領内に向かう無人機を撃墜したと発表した。

 今回のイラク・イスラーム抵抗運動によるイスラエル攻撃について、イスラエル・メディア「アルーツ・シェバ」は、同組織がイスラエル北部の沖合にあるカリシュ・ガス田(ハイファ沖80キロ)への攻撃を試みたと報じている。現時点で同ガス田での被害は確認されていない。

 

評価

 ガザ情勢悪化を受け、中東各地でイスラエルを標的とした武装活動が活発化する中、イラクのシーア派民兵がイスラエル沖のガス田への直接攻撃に乗り出した。イスラエルが開発を進めるカリシュ・ガス田は、2022年7月にもレバノンのヒズブッラーから海上攻撃を受けたことがある。今後も同ガス田への攻撃が続くとなれば、開発事業が中断に追い込まれる可能性がある。さらに、カリシュ・ガス田周辺にあるタマル・レバイアサン両ガス田の拡張計画や、キプロスのアフロディーテ・ガス田での開発計画も安全上の懸念から進捗が遅れ、イスラエル沖のガス田開発全体にも悪影響が及ぶだろう。

 イラスエルを狙った越境攻撃は、イスラエルの周辺諸国への被害につながる恐れがある。イラクのシーア派民兵がイスラエルを攻撃する際、無人機がヨルダン領空を通過していると見られる。このため、ヨルダンが自国の安全保障を優先し、イラクから来た無人機の撃墜に動くかもしれない。一方、無人機が意図せずヨルダン領内に落下し、人的・物的被害が生じることが懸念される。

 

【参考】

「パレスチナ情勢の石油・天然ガス市場への影響 ――東地中海ガス田開発の行方と湾岸産油国の動向――」『中東分析レポート』T23-09。※会員限定。

(主任研究員 高橋 雅英)

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