中東かわら版

№147 イラン:インド洋航行中のタンカーへの無人機攻撃が発生、米国防総省はイランを非難

 2023年12月23日、米国防総省は、インド洋を航行していた化学製品を運搬するタンカー「Chem Pluto」(リベリア船籍、オランダ企業運航、日本企業所有、2012年建造)が無人機による攻撃を受けたと発表した。同日付『ロイター通信』によると、米国防総省報道官は、「Chem Pluto」がインド西岸から沖合370キロメートル付近を航行中に、イランから発射された無人機によって被害を受けたと発言した。報道によると、同タンカーはイスラエル人実業家と関係があるようである。同タンカーは、ジュベイル港(サウジアラビア)からムンバイ港(インド)に向かっていた。人的被害はなく、攻撃で発生した火災は消し止められた模様である。

 これを受けて、イランのキャナアーニー外務報道官は24日、イランがシオニスト政体(イスラエル)の権益を標的にしているとの非難は政治的目的からなされているとして、イランの関与を否定する姿勢を示した。同報道官は、米国によるガザ地区での一時停戦を求める決議への拒否権発動が、イスラエルによる犯罪行為を煽っていると批判した。

 

評価

 今次事案の注目ポイントは、米国防総省がイランを名指しで非難している点である。現時点において、攻撃で使われた無人機本体あるいは残骸の画像などは公表されておらず、イランが発射したとの証拠はない状況である。イラン外務省は実行を否定した。このため、証拠不在の中、両国間での舌戦が続くことになる。米国防総省がイランを攻撃主体として名指ししたことで、米国・イラン間の緊張が一段高まったといえる。なお、イランの対外政策決定過程には、通常、外務省だけではなく、最高指導者、大統領、国家最高安全保障会議、革命防衛隊等の複数の主体が関わっている。こうした背景から、外務省の与り知らぬところで革命防衛隊が動いた可能性も排除されない点に充分な留意が要るだろう。

 また、航行の自由への妨害が広域化した点も懸念される。本年10月7日にはじまったいわゆるガザ危機を受けて、イエメン北部を実効支配するアンサール・アッラー(通称フーシー派)が、紅海付近のイスラエル関連船舶への妨害行為を開始・継続している。こうした中、今次事案は、紅海ではなく、インド洋において発生した。

 今後、より広域に攻撃の応酬が常態化するかを見通す上では、先立って発表された、紅海での船舶妨害に対処するための多国間安全保障枠組「繁栄の守護者」作戦の動向が重要である。同作戦は米国主導で構想の具体化が進められており、バハレーン、カナダ、フランス、イタリア、オランダ、ノルウェー、セーシェル、スペイン等の参加が見込まれる。当初、同構想の対象は、紅海バーブ・ル・マンダブ海峡付近を念頭に置いていたと見られるが、今後、インド洋までをも含めたより広域での対処が検討課題になるだろう。実務的には、既に、荷主や船社はスエズ運河を迂回する経路を取らざるを得ない事態となっているが、その他の海域での不測の事態も念頭に、海運・エネルギー輸送への妨害に対するより一層の警戒が求められることになる。

 

【参考】

「イエメン:フーシー派による紅海での航行妨害が常態化」『中東かわら版』No.141。

「イエメン:フーシー派がイスラエル批判・パレスチナ支援の「有言実行」ぶりをアピール」『中東かわら版』No.136。

(研究主幹 青木 健太)

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