中東かわら版

№146 エジプト:エチオピアとのダム運用協議が決裂

 2023年12月17~19日、「グランド・エチオピアン・ルネッサンス・ダム(GERD)」の運用に関するエジプト・エチオピア・スーダンの3カ国協議が、エチオピアで行われた。GERD運用問題では、エジプトとスーダンが2011年よりダム建設に伴うナイル川の水資源をめぐって、エチオピアと対立してきた。今回の協議は、GERD運用ルールについて法的拘束力のある最終合意を目指すもので、今年7月のエジプト・エチオピア首脳会談の結果を踏まえて開始された。協議はこれまで3度(8月、9月、10月)行われ、今回が4回目であった。しかし、最終的に3カ国間で合意に至らなかった。

 エジプト水資源・灌漑省は交渉決裂を受け、協議失敗の原因は、エチオピアが3カ国全ての利益を守るために提案された技術的・法的な解決策を一貫して拒否したことにあると非難した。そして、エチオピアによるGERDの貯水・運用を注意深く監視するとともに、国際憲章と国際協定に基づき、エジプトに損害が発生した場合、自国の水資源と国家安全保障を守る権利を保持すると表明した。

 一方、エチオピア外務省は、エジプト側がGERD問題解決の障害となっていると指摘し、エチオピアは現世代及び次世代の水需要を満たすため、公平かつ合理的な利用原則に基づき、ナイル川の水資源を利用し続ける点を強調した。

 

評価

 今般のGERD協議決裂の背景には、今年9月にエチオピアがエジプトとスーダンの同意なしに、GERDへの貯水を実施したことがある。エジプトは最終合意に向けてエチオピアとの妥協点を模索していた矢先、エチオピアの一方的な運用を目の当たりにし、同国への不信感を強めた。エジプト側は、エチオピアのアビー首相が政権を維持する限り、エチオピアとの最終合意は実現しないとの立場に転じていると見られ、今後はエチオピアとの対決姿勢を強めていくだろう。

 こうした中、エジプトがアビー政権の退陣に向け、エチオピア情勢に関与していく可能性も否定できない。アビー政権は少数民族ティグライとの内戦(2020~22年)を乗り切ったものの、新たな民族対立に直面している。エチオピアの2大民族、アムハラとオロモ間での武力衝突が頻発しており、特にアムハラ武装勢力がオロモ出身のアビー首相への敵意を強めている。さらに、隣国エリトリア(領土問題などを理由にティグライ内戦に介入)が、アビー政権が一方的にティグライとの停戦協定を結んだことに猛反発しており、同政権と対峙するアムハラ武装勢力を支援している可能性がある。このようにアビー政権への包囲網が強まる中、状況次第では、エジプトがアビー政権に圧力をかけるような動きを見せることもあり得る。エジプトは今年4月から続くスーダン内戦で、GERD問題で連携するブルハーン司令官率いるスーダン国軍に肩入れしている経緯がある。

 国土の 9 割が砂漠であるエジプトにとって、ナイル川からの水供給は安全保障上の生命線である。3期目への再選を果たしたシーシー大統領は国民の水不足への懸念を払拭するため、あらゆる手段を用いて、アビー政権によるGERD運用を阻止していくと考えられる。

 

【参考】

「エジプト:エチオピアのダム貯水に反発」『中東かわら版』No.78。

「エジプト:エチオピアとの首脳会談、スーダン近隣諸国首脳会議の主催」『中東かわら版』No.57。

「エジプトの対UAE関係 ――経済支援と東アフリカ情勢での競合――」『中東分析レポート』T23-04。※会員限定。

(主任研究員 高橋 雅英)

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