中東かわら版

№143 イスラエル・パレスチナ: 再燃したガザ戦争#11――米国は戦闘の段階的縮小を要請

 大きな進展・変化はないが、ガザの北部と南部で激しい戦闘が継続している。北部のシュジャーイーヤ地区では、15日、イスラエル人の人質3人が白旗を掲げて助けを求めたが、イスラエル軍兵士に脅威があると誤認されて射殺される事態が生じた。状況は調査中であり、人質が自力で脱出したか、あるいはハマースに放棄されたか、罠として利用されたかなどは不明である。ただイスラエル軍は、人質が突然戦場に出現することは想定していなかったようだ。またやはり詳細は不明だが、イスラエル軍は11日から17日の間にガザで4人の人質の遺体を確認したと発表した。イスラエル当局はまた別の人質2人について、遺体などの確認はないが死亡と判断して家族に通報している。

 12日、国連総会はガザ停戦を求める決議案を賛成153(日本含む)で可決した。反対はイスラエル、米国を含む10カ国で、23カ国が棄権した。また同日、バイデン大統領は選挙キャンペーン会合での演説で、イスラエルはガザに対する無差別爆撃を行った結果、国際社会の支持を失ったと批判し、ネタニヤフ首相は変わる必要があると苦言を呈した。バイデン大統領が公の場でイスラエルのガザに対する攻撃のやり方を批判したのは初めてである。大統領発言に続き、14日にはホワイトハウスNSCのサリバン補佐官がイスラエルを訪問し、ネタニヤフ首相、ガラント国防相らと協議を行った。米国は、ガザ市民の損害を抑えるために大規模地上戦を終了し、ハマース幹部など特定された標的に対する攻撃精度の高い小規模作戦への段階的な転換を求めたようだ。今週にはオースティン国防長官、統合参謀議長がイスラエルを訪問して、さらに協議を行う予定である。

 ガザの人道危機はさらに切迫している。現場を視察した国際連合パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)代表は、食料不足から住民がトラックの荷台から物資を奪う事態も発生しており、市民的秩序の崩壊が見られるとした。また同代表は、餓死者が出ても驚かないと警告している他、WHOは感染症の拡大を懸念している。イスラエル閣議は15日、エジプトとの境界にあるケレムシャローム検問所からの支援物資搬入を承認した。国連・援助機関は、物資の搬入地点が増えることを歓迎しているが、大規模な支援物資の搬入がない限り、危機的状況は変わらないとしている。

 

評価

 米国は非公式に、ガザ市民の死傷者数を抑える措置を取るようにイスラエルに要請していたようだが、ついに公の場で不満を表明した。ただ米国はハマース壊滅のための作戦は継続するよう求めている。具体的な実施時期をめぐって意見の対立はあるが、作戦方式を段階的に変更することについてはイスラエル軍も検討しているようである。米国は、年末年初までに作戦の変更を求めていると報道されている。サリバン補佐官以降の要人訪問を経て、イスラエルとしては米国の意向を無視できなくなるだろう。

 一方、ネタニヤフ首相は、ハマース後のガザの統治方式に関するバイデン政権の構想について、声高に反対を表明し始めている。ネタニヤフ首相は記者会見や国会の証言などで、パレスチナ自治政府がガザを統治する構想、あるいは将来的に西岸・ガザにパレスチナ国家を創設する2国家構想に異議を唱えている。また同首相は、1993年に署名されたオスロ合意への非難を展開している。こうした姿勢について、米国あるいはイスラエル国内の反ネタニヤフ勢力は、ネタニヤフ首相が次回の選挙をにらんだキャンペーンを開始したと見ているようだ。世論調査では、国民の大半は10月7日の大失態の責任がネタニヤフ首相にあると見ている。同首相は国民の関心を自分への責任追及からそらすために、また戦争後の選挙で勝利するため、パレスチナ国家創設に対する国民の不信感・警戒心を煽る手段に出たようだ。

 ガザ北部で人質3人がイスラエル軍兵士に射殺されたことで、他の人質の家族らは危機感を強め、イスラエル政府に交渉による人質解放を行うよう要求を強めた。外交的な接触はこれまでも行われていたが、今回の事態を受けた家族らの要求もあり、イスラエル政府は交渉による人質解放への動きを強化している模様である。そもそも人質の家族らの間には、家族がハマースの人質になったのはイスラエル政府・軍の失態だとの不満がある。それに加えて、詳細は調査中であるが、白旗を掲げた非武装の人質3人がイスラエル軍に射殺されたことで、人質の家族らの政府・軍への不満と不信感が増大してもおかしくない。

 パレスチナ側の動きとしては、ほとんど注目されていないが、11日に西岸でガザでの停戦を求めるゼネストが実施された。同ストは停戦を求めた安保理決議採択の際、米国が拒否権を行使した後に、西岸のパレスチナ諸勢力とイスラーム勢力をはじめとした様々な団体が呼びかけて起こったもので、かなりの規模で実施された模様である。レバノン、トルコなどでも小規模だがゼネストや抗議デモが実施された。ガザ戦争開始後、西岸ではガザ情勢に連動する大きな政治的な動きはほとんどなかったが、今回のゼネストはその最初の動きとも言え、今後の展開が注目される。

 

(協力研究員 中島 勇)

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