中東かわら版

№141 イエメン:フーシー派による紅海での航行妨害が常態化

 2023年12月12日、イエメン北部を実効支配するアンサールッラー(通称フーシー派)の軍事部門は、報道官声明を通じ、紅海航行中のノルウェー船籍の石油タンカー(Strinda)に対して同派海軍がミサイルを発射したと発表した。声明は、同タンカーがイスラエルに向かっており、警告を無視したため攻撃に踏み切ったと主張した。その上で声明では、過日の声明(『中東かわら版』No.136参照)にのっとって、ガザ地区に必要な食料・医薬品が運ばれるまで同派が引き続きイスラエルに向かう船舶を妨害するとした。またアンサールッラーのマシャート政治局長(軍総司令官)は、演説を通して今般の自派海軍による戦果を称賛し、今後もパレスチナ及びレバノンにおける抵抗勢力と足並みを揃えて戦闘を継続すると述べた。

 

評価

 アンサールッラーによる紅海での航行妨害が常態化しつつある。イスラエルのライフラインに対する間接的な攻撃で同国の孤立化を推進し、これを「抵抗の枢軸」(親イラン武装組織に対する総称)及び親パレスチナ/反イスラエル勢力としての自派のプレゼンス向上の一助とすることで、イエメン戦争における自派の優位も確かなものにしようとの思惑だ。

 アンサールッラーの動向は、現下のイスラエル・ガザ間の軍事衝突の行先を左右するほどのインパクトを有するわけではなく、同派自体もそれを至上命題とは設定していないと思われる。他方で、イエメン戦争においてアンサールッラーと軍事的に対立するサウジやUAEが同派の行動に目立った非難を展開しておらず、それゆえ両国を後ろ盾としてアンサールッラーと直接対峙しているイエメン統一政府のプレゼンスも低下している状況だ。周辺アラブ諸国としては、国内世論にも気を配りながら親パレスチナ/反イスラエルの姿勢を維持せざるをえず、これがアンサールッラーによる武装活動に対する事実上の黙認につながっている。

 

【参考】

「イエメン:フーシー派がイスラエル批判・パレスチナ支援の「有言実行」ぶりをアピール」『中東かわら版』No.136。

「イエメン:フーシー派によるイスラエルへのミサイル・ドローン発射に関する声明」『中東かわら版』No.117。

(研究主幹 高尾 賢一郎)

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