中東かわら版

№137 リビア・トルコ:リビアへの派兵期間の2年延長を決定

 2023年11月30日、エルドアン大統領が議会に付託した、トルコ軍のリビアでの任務期間を2年間延長する旨の大統領法案が、賛成多数で承認された。これにより、リビア派兵期間が2024年1月2日から2年間延長される。

 トルコのリビア派兵は、2019年11月にトリポリを拠点とする、当時の国民合意政府(GNA)、(筆者注:現在は、国民統一政府(GNU))との軍事協力に係る覚書に基づき、2020年1月の議会承認を経て、行われたものである。その後、トルコは2021年1月と2022年6月にそれぞれ派兵期間を18カ月延長し、今回の延長措置は3回目である。

 議会審議では、主として同大統領法案の正当性が議論された。賛成を表明した、与党公正発展党(AKP)、民族主義者行動党(MHP)、善良党(İYİ)等は、トルコの国益を損ねる脅威に対して国際法の枠内であらゆる必要な措置を講じる義務があることを強調した。とりわけ、リビアには非合法な武装集団やテロ組織が存在することに言及したうえで、同地域におけるトルコ軍の存在は、大量移民やテロリズムといった、今後起こり得るリスクに対するトルコの安全保障を確保するために必要だと主張した。

 一方、最大野党の共和人民党(CHP)、人民平等民主党(HEDEP)は、AKPは、GNUに軍隊を送るために動いているが、GNUは正式に国民に承認された政府ではない。派遣延長を行うよりも先ず、リビア国民の承認を得るべきとの考えを示した。また、軍の派遣は兵士の犠牲を伴うものであり、ロシアの「ワグネル」のような非合法組織と対峙させるべきではないと強調した。

 

評価

 今般のリビア派兵延長により、当面の間、トルコがリビアにおける軍事的プレゼンスを維持していく見通しである。2014年夏から紛争が続くリビアではトルコ軍に加え、ロシアのワグネルやイタリア軍部隊も駐留を続けている。トルコはトリポリ西方のワティーヤ空軍基地を拠点とし、トルコ製無人攻撃機「バイラクタルTB2」を運用している。トルコのリビア西部への軍事的関与は、首都トリポリで政権を運営するGNUから、トリポリの奪還を目指す反政府勢力の動きを抑止している。

 トルコがリビア派兵を継続する理由は、リビアとのエネルギー協力を維持するためである。トルコは2019年11月に東地中海沖でのガス田開発に係る覚書を、2022年11月にリビア陸海双方での油田・ガス田開発に係る覚書をトリポリ拠点の政府と調印し、リビア周辺での資源活動を正当化してきた。一方、GNUと対立する東部拠点の正統な議会「代表議会(HOR)」は、一連の覚書を承認していない。こうした中、トルコは同覚書の効力を維持するには、肩入れするトリポリ側の政府の体制存続が必須であるため、軍事面であらゆる支援を行っている。

 リビア紛争では2020年10月の停戦合意以後、諸外国が介入する形での大規模な武力衝突は起きてないものの、リビアから撤退する意志のないトルコに対して不満を持つ勢力がこの先、同国に挑戦するような武装活動に乗り出す恐れもあるだろう。

 

【参考】

「リビア・トルコ:エネルギー協力に係る覚書」『中東かわら版』2022年度No.96。

「リビア:トルコ軍のリビア派兵期間の延長」『中東かわら版』2022年度No.34。

(主任研究員 高橋 雅英)
(主任研究員 金子 真夕)

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