中東かわら版

№136 イエメン:フーシー派がイスラエル批判・パレスチナ支援の「有言実行」ぶりをアピール

 2023年12月3日、イエメン北部を実効支配するアンサールッラー(通称フーシー派)の軍事部門は、報道官声明を通じ、紅海バーブ・ル・マンダブ海峡でイスラエル船2隻(Unity Explorer、Number 9)をミサイルとドローンで攻撃したと発表した。それによれば、同攻撃はイエメン人の要求と、パレスチナ人及び彼らの抵抗を支持するアラブ・イスラーム諸国の人々の呼びかけに応えたもので、2隻が警告を無視した後で実施された。その上で、イスラエルのガザ地区攻撃が続く限り、紅海及び周辺海域におけるイスラエル船の航行を今後も妨害すると述べた。

 また同日、報道官は殉教者遺族追悼式典に参加した際、フーシー派がガザ・パレスチナ支援の歴史に名を刻んだことの名誉に言及し、イエメン北部各地で市民がイスラエルに対する怒りの声を上げていることを称えた。

 なお本件に関し、紅海で米国のミサイル駆逐艦Carnyが応戦し、フーシー派の攻撃を阻止したとの報道もあるが、報道官声明はこれに触れていない。

 

評価

 10月19日以降、フーシー派はミサイル・ドローンを用いたイスラエル及び米国権益への攻撃を断続的に行っている。11月19日に日本郵船運航の商業船Galaxy Leaderを拿捕した際には、標的対象として以下を挙げた。

  1. シオニスト政体(※イスラエル)の旗を掲げた船
  2. イスラエル企業が操業する船
  3. イスラエル企業が所有する船

 殉教者遺族追悼式典での発言から分かるように、フーシー派はイスラエル・米国権益への直接攻撃の継続を歴史的偉業として喧伝し、自派のパレスチナ支援における有言実行ぶりを強調している。言うなれば、口先だけのイスラエル批判やパレスチナ支援の存在が、同派の直接攻撃のモチベーションになっている。

 フーシー派は北部サナア制圧以降、自派をイエメンにおける正統な政治主体と位置づけてきた。このため、米国、イスラエル、またイエメン戦争に関与するサウジアラビアとUAEには敵意を向けてきたが、日本を含めたそれ以外の国々には(一方的に)友好的姿勢を示している。同派としては、パレスチナ支援での有言実行ぶりをアピールすることで、まずもってイエメン国内での体制基盤をより強化する狙いがあるだろう。加えて、イスラエル批判・パレスチナ支援を訴える周辺諸国の間に自派のシンパを生みたいとの思惑もあると考えられる。

 

【参考】

「イエメン:フーシー派によるイスラエルへのミサイル・ドローン発射に関する声明」『中東かわら版』No.117。

(研究主幹 高尾 賢一郎)

◎本「かわら版」の許可なき複製、転送はご遠慮ください。引用の際は出典を明示して下さい。
◎各種情報、お問い合わせは中東調査会 HP をご覧下さい。URL:https://www.meij.or.jp/

| |


PAGE
TOP