中東かわら版

№135 イスラエル・パレスチナ:二国家解決案とまだ早い戦後シナリオ

 2023年11月27日、地中海連合(UfM: Union for the Mediterranean)の主催により、バルセロナでアラブ・EU外相会合が開催され、イスラエル・ガザ間の衝突につき協議がなされた。概ねの合意事項として挙げられたのは以下の点である。

 

  1. ガザ・イスラエル双方のこれ以上の人的被害の発生を防ぐべく、停戦を恒久化する必要がある.
  2. イスラエルがハマースを掃討した後、ガザ地区に治安上の真空を生んではならない。
  3. ヨルダン川西岸地区とガザ地区は一つのパレスチナ自治区として統治されるべきであり、それを担うにふさわしいのは西岸のパレスチナ自治政府(PA)である。ただし選挙を通じて政権を改善すべき。
  4. パレスチナ問題に必要なのはパレスチナ国家の樹立によるイスラエルとの共存、即ち二国家解決である。

 

 アラブ・イスラーム諸国からはUfM加盟国であるエジプト、サウジ、チュニジア、トルコ、パレスチナ自治政府、モロッコ、ヨルダン、レバノンの外相、またアラブ連盟のアブルゲイト事務局長の参加が確認され、ヨルダンのサファディー外相がアラブ側議長を、EUのボレル安全保障担当上級代表がEU側議長を務めた。またUfM加盟国ではないが、サウジアラビアからファイサル・ビン・ファルハーン外相が参加し、アラブ連盟・OIC(イスラーム協力機構)の代表を務めた。同外相は、即時停戦とパレスチナ人問題に対する公正かつ包括的な解決に向けて、国際機関が責任をもって全うすべきだと主張しつつ、イスラエルは現在行っている「残虐行為の責任を取る必要がある」と発言した。

 

評価

 11月半ば以降、イスラエルによる地上侵攻が本格化するに伴って、米国をはじめとした各国は長く机上論でしかなかった二国家解決案を再び重視し、現在のイスラエル・ガザ間の戦争「後」を議論するようになった。上記1~4の合意事項と照合すれば、各国が想定している戦後とは、イスラエルがハマースを掃討し、ガザの統治をPAにバトンタッチして、西岸地区とガザ地区からなる一つのパレスチナ国家が誕生する、というものだ。

 かねてよりほぼ全てのアラブ・イスラーム諸国は、パレスチナを支持してもハマースは支持しておらず、今回の合意はそのことを反映している。戦後統治の直接介入はいずれの国にとっても負担である中、PAにそれを任せるのは現実的な案だ。

 ただし上記3にあるように、現状のPAではそれが難しいだろうとの認識が各国にはある。以上のシナリオ通りの戦後となれば、2007年の決別以降、ガザの自立を許してきたPAが今次戦争によって漁夫の利を得る形となり、そのことは中長期的に見てパレスチナにおける大きな禍根となるだろう。戦後復興のバーターとして、アラブ・イスラーム諸国がPAのアッバース議長に勇退を求めるといった事態も考えられる。

 より大きな、また決定的な問題は、どのような二国家解決が可能なのかが不透明な点である。入植が進み、「虫食い」状態とも呼べる西岸地区をそのまま独立させるのは不可能であるし、もとよりイスラエルは二国家解決案を頑なに拒否してきた。戦後、ネタニヤフ政権が崩壊し、「宗教的シオニズム」や「ユダヤの力」といった宗教右派勢力が権力中枢からパージされるとしても、野党勢力や国内世論がパレスチナ国家との共存に納得するわけではない。

 そもそも、アラブ・イスラーム諸国が主張してきた二国家解決案には、イスラエルが1967年以降に獲得した入植地を放棄することが含まれているが(例えばカタルなどはこれを明確に要求している)、それをイスラエル側が承諾する可能性もほぼゼロであろう。停戦が恒久化する保証もないまま、戦後についての議論が進んでいるのが現状だ。

 

【参考】

「イスラエル・パレスチナ: 再燃したガザ戦争#7――南部での作戦の示唆と二国家構想への再注目」『中東かわら版』No.128。

(研究主幹 高尾 賢一郎)

◎本「かわら版」の許可なき複製、転送はご遠慮ください。引用の際は出典を明示して下さい。
◎各種情報、お問い合わせは中東調査会 HP をご覧下さい。URL:https://www.meij.or.jp/

| |


PAGE
TOP