№133 ヨルダン:イスラエルとの水供給・エネルギー協力の見直し
2023年11月17日、ヨルダンのサファディー副首相兼外相は、ガザ情勢の悪化を考慮し、イスラエルとの水供給・エネルギー協力に係る協定を見直すことを発表した。同協定は昨年11月に調印した覚書に基づき、今年10月に両国間での署名が予定されていた。内容は、ヨルダン側が新設の太陽光発電所(600メガワット)からの電力をイスラエルに輸出し、イスラエル側が海水淡水化を通じて得た2億立方メートルの水をヨルダンに供給するものであった。
その他のイスラエルとの協力について、ヨルダン下院が政府に対し、イスラエルと締結した全ての協定を検証し、必要な措置を講じるよう勧告した。特に大型協定として、ヨルダンがイスラエル産ガスを15年にわたって受け取る協定(2016年締結)が挙げられる。
評価
イスラエルのガザ軍事作戦が激化するにつれて、ヨルダン各地でパレスチナとの連帯を掲げるデモが活発化している。ガザ地区のアフリ病院の爆発後、首都アンマンでデモ隊がイスラエル大使館への襲撃を試み、治安部隊が阻止する事件が起きた。ヨルダン政府もイスラエルのガザ攻撃を激しく非難したり、駐イスラエル大使を召還したりするなど、イスラエルとの関係を控える立場に転じた。こうした事情から、今般ヨルダンがイスラエルとの水・電力取引協定を見直すことを決断した。
この先、ヨルダン・イスラエル間のガス供給の行方が注目される。2016年のガス協定に基づき、ヨルダン・イスラエル間のガスパイプラインが2019年に敷設され、ヨルダンは2020年1月にイスラエルからのガス輸入を開始した。イスラエル産ガスはヨルダンの主力電源であるガス火力発電(発電比率の約76%)に供給されている。ヨルダン政府としては、イスラエルからのガス輸入により、長期にわたってエネルギー価格を安定化させることで、少なくとも年間5億ドルの支出を節約し、慢性的な財政赤字を削減できるとの公算であった。
他方、ガザ攻撃を続けるイスラエルとの関係を維持すれば、ヨルダン国民や諸外国からの批判の矛先が今後、ヨルダン政府に向く恐れがある。ヨルダンのハサーウナ首相は26日にイスラエル産ガスの代替調達の可能性を示唆し、国名を公表しなかったものの、湾岸諸国2カ国とガス供給について協議している旨を明かした。ただ、一般的にパイプライン経由のガス輸入は液化天然ガス(LNG)より相対的に安価であるため、ヨルダンの厳しい財政事情を踏まえると、イスラエル産ガスの代替調達案が進展する可能性は低いと考えられる。
(主任研究員 高橋 雅英)
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