中東かわら版

№132 イラク:干ばつが農民に与える影響

 イラクでは、過去4年にわたり干ばつが続いているが、2023年11月26日付クドゥス・アラビー(在外パレスチナ人が経営する汎アラブ紙)は、「ノルウェー難民評議会」が実施した世論調査の結果を基に干ばつの影響について要旨以下の通り報じた。

 調査は、2023年7月~8月にニナワ県、キルクーク県、サラーハッディーン県、アンバール県の4県で実施され、1079人から回答を得た。それによると、農民の一部は2022年と比べると2023年に所得が増えたが、これは降水量が当初の見込みよりも多く、収穫高が予想よりも良かったからだ。しかし、農民にとって水の確保は生産に影響を与える問題であり続け、回答者の6割が作付面積の縮小か、使用する水の量の削減を余儀なくされた。また、8割が過去12カ月間で食費を減らさざるを得なかったと回答した。

 イラク政府は干ばつについてトルコとイランがチグリス川、ユーフラテス川に建設したダムのせいでイラクに流入する水が減っていると非難しているが、「ノルウェー難民評議会」はイラクでの灌漑に問題があり、イラク当局による水資源管理が被害を増幅していると指摘した。同評議会の調査によると、回答者の約7割が地表灌漑を利用しているが、これは水使用量が多く、雨季と乾季がある地域での灌漑に不向きとみなされている手法である。また、同評議会は、イラクでの気候変動は人々の対応能力を超える速さで進んでいると警告した。

評価

 気候変動やそれに伴う水資源の枯渇は、中東諸国にも大きな影響を及ぼしている。その一方で、イラクでの水不足の問題は水源となる河川の上流国での資源消費量の増加、イラクでの非効率な資源利用、イラクの人口の急速な増加など、包括的な対策を必要とする問題である。例えばイラクの人口は年率2.5%増加し、最後に人口調査が行われた1997年の約2233万人から、2022年の推計値で4200万人以上となっている。イラク政府も農作物の作付、灌漑技術、農業用水の配分などの対策を講じていないわけではないが、恒常的な政争の影響で予算編成や執行が円滑に進まず、これも干ばつ対策や農民の生活支援を滞らせている模様だ。11月には、裁判所が国会のハルブーシー議長の任期を打ち切る判決を下しており、これに同議長の出身会派が反発して所属閣僚が辞表を提出するなどしている。イラク南部では、既に干ばつにより農業や居住地を放棄する者も多数に上っている模様であり、政治情勢が迅速な対策を妨げることにより、被害が拡大する可能性が高い。

(協力研究員 髙岡 豊)

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