中東かわら版

№131 イスラエル・パレスチナ: 再燃したガザ戦争#8――戦闘の一時停止と人質解放

 2023年11月24日午前7時から、イスラエル軍とハマース間の戦闘の一時停止が発効した。カタルを中心にした仲介による合意に基づき、双方は4日間の戦闘停止に至り、その間にガザでハマースに拘束されたイスラエル人人質の解放とイスラエルの刑務所に拘留中のパレスチナ人囚人の交換が実施される。合意された人質解放は50人で、人質1人につきパレスチナ人3人が釈放される。その後、人質10人の解放があれば戦闘停止は1日延長される。11月26日時点で、戦闘停止は概ね順守されている。

 人質解放は、24日に13人(子供4人、母親3人、シニア世代の女性6人)、25日に13人(子供8人、母親4人、若い女性1人)、26日には14人(子供9人、母親2人、シニア女性2人、男性1人。男性はロシアとの二重国籍者。4歳の女子は米国との二重国籍者)が解放された。同14人は、ガザ南部ラファフではなく北部で国際赤十字社に身柄を渡された。ロシア系イスラエル人は、プーチン大統領の要請で解放されたため、囚人交換の対象外となる。イスラエル側は、人質が解放されるごとに29人のパレスチナ人の女性及び未成年の囚人を交換釈放している。またタイ政府が独自のルートで交渉した結果、24日はタイ人10人、フィリピン1人、25・26日にはタイ人3人の人質が解放された。26日、ハマースは合意期間の延長する意向を表明、イスラエル、米国は前向きの反応をしている。バイデン大統領は、米国籍を持つ女児が解放された直後、短い演説を行い、人質解放の継続を働きかけると述べた。

 ガザでイスラエル軍の攻撃が停止されたのは、10月7日以降、約1カ月半ぶりである。一部の商店は営業を再開し、住民が買い出しの外出をし、子供たちは久しぶりに野外で遊んだ。また北部から南部に避難した住民の一部は、自宅及び家族・親戚の安全確認や冬用の服などを取りに北部に戻ろうとした。ハマースはこうした動きを推奨し、イスラエル軍は、北部は安全ではないので戻らないよう警告するビラを配布した。戦闘の一時停止に伴い、1日約200台のトラックがガザに入るなど、エジプトからの人道支援物資、燃料などの搬入が大幅に増加した。しかしこれは十分な量ではない。

 戦闘は一時停止されたが、イスラエル軍は次の戦いの準備をするとし、ハマース側も戦闘体制を維持するとしている。戦闘停止まで、イスラエル軍はガザ市近郊の地区でハマース掃討作戦を実施していた。ガザ市のシファー病院については、24日に敷地内にあるトンネルへの入り口を爆破した他、23日に院長及び病院関係者を拘束している。24日時点で、病院には250人が残留と報道されている。

 

評価

 戦闘の一時停止や人質解放は、これまでであれば長期の戦闘停止あるいは停戦について協議を開始する契機となったかもしれない。しかし、今回は違う。イスラエル国民は政府と軍に対して、ハマースの壊滅とイスラエル人人質の全員解放を求めている。1つだけでも遂行が困難な作戦を、2つ同時並行的にイスラエル軍は実施する構えである。

 人質解放は、4日間の戦闘停止期間は1日13人、その後は、人質10人の解放で1日の戦闘停止延長が設定されている。戦闘停止が継続する期間は不明だが、仮に人質全員が解放された場合でも、イスラエル軍はハマース壊滅作戦を継続するだろう。そうだとすれば、ハマースは、一部のイスラエル人人質を解放せず「人間の盾」として使うかもしれない。武力で人質奪還を強行する場合、イスラエル軍は、最悪の場合でも人質がいる場所の見当をつける必要がある。そのためにイスラエル軍や情報機関は、解放された人質の証言や人質らがガザ南部で国際赤十字社に引き渡されるまでの移動経路の分析だけでなく、戦闘停止期間中のハマース側の動きを詳細に観察するだろう。26日の人質解放は、過去2回のように南部ではなくガザ北部で行われた。人質解放の場所の選択・やり方で、ハマースはイスラエルに対して情報戦・心理戦を行っているのかもしれない、

 シファー病院を含む北部の複数の病院を占拠したイスラエル軍であるが、国際的な非難を受けても実行した価値があったかは疑問である。イスラエル軍がシファー病院の地下にあるとして公開・宣伝した施設は、国際社会に、病院の地下に大規模な軍事施設があるとの印象を与えることに失敗している。ただ現時点では、イスラエル軍が複数の病院の地下にあるすべての施設を公開したのか、あるいは別の目的のために病院を占拠したかなどは不明である。

 テルアビブ大学の戦略研究所(11月25日時点)は、10月7日以降のイスラエル軍兵士の確定戦死者数392人、ハマース戦闘員の推定死者数を最大で4000人としている。ハマースの戦闘員数は、概ね約3万人と目されており、同推定に基づけば、ハマースは戦闘員の1割強を失っている。負傷者数を考慮すれば、ハマースの損失はさらに増大する。イスラエル軍は、ハマース側の損失は大きく、ガザ市及び近郊では組織的な戦闘ができなくなったと主張している。こうした推定・主張が正しいとすれば、ハマースは戦闘停止期間中に、戦闘員の再編制を行うだろう。その場合、ハマースは、北部ではなく、ほぼ無傷の部隊がおり、地下トンネルなどの軍事インフラの被害も少ない南部で体制強化を行うかもしれない。

 戦闘の一時停止が、ガザ住民への人道支援物資(燃料含む)供給を急速に増加させたことは間違いない。この点で、合意成立の意味は大きい。1日約200台のトラックのガザ入りは、10月7日以降の状況では大幅増加である。他方、10月7日以前、電気や水が供給されていた時でも1日500台のトラックがガザに出入りしていた状況と比較すれば、供給量が不十分であることは明白である。戦闘は、冬(雨季)になっても続く公算が高い。イスラエル軍は、11月初旬から、兵士の冬用ジャケット配布を開始している。100万人を超すガザの避難民は、水や食料など生活必需品に加えて、雨に濡れない寝場所と冬用の衣服・装備が必要である。

(協力研究員 中島 勇)

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