№130 アフガニスタン:ターリバーン暫定政権の内政動向
2023年11月20~21日、ターリバーン(タリバン)暫定政権のアーホンドザーダ最高指導者が主宰する閣議が、南部カンダハール州で開催された。同政権首相府及びムジャーヒド報道官が発出した声明によると、閣議の要旨は以下の通りである。
■ 信徒たちの長ハイバトゥッラー・アーホンドザーダ師により、カンダハール州で閣議が開催された。同師は、現在のイスラーム統治機構は、アフガンのムジャーヒディーンによる無数の犠牲の末に結実したものであり、シャリーア(注:イスラーム法と訳されることが多い)の施行と人民への奉仕は最優先事項であると述べた。
■ 同師は、全省庁は、今や約4000万人のアフガニスタン人民に責任を有している、このため、アフガニスタン人民に対して不誠実であることがないよう気をつけよ、現在其方は一つの郡や州の責任者ではなく、アフガニスタン全土の責任を負っているのであると述べた。同師は、力の代わりに、奨励、説得、善き倫理によってイスラームの道に布教するよう努力せよ、何故なら力によってでは人民は反発するだけであり、奨励によって人民は其方に友好で誠意のある姿勢を取るであろうと述べた。
■ その後、アブドゥルガニー・バラーダル経済担当副首相代行、及び、ヌールッディーン・アジージー商業相代行は、最近行われたイランとパキスタン訪問について、特に輸出、輸入、トランジット戦略について報告した。
■ 続いて、今冬に向けた食料・燃料の準備についての決定が行われた。ヘダーヤトゥッラー・バドリー・アフガニスタン中央銀行総裁より、通貨アフガニーの価値の安定化等について説明がなされるとともに、イスラーム首長国(注:ターリバーン暫定政権)の通貨政策や関連事項の決定が行われた。
■ アブドゥルサラーム・ハナフィー行政担当副首相代行より、移民・難民高等委員会の活動について報告が行われた。これを受けて、信徒たちの長から全省庁に対して、移民・難民への奉仕を最優先事項にするよう指示が出された。
■ 近隣諸国との関係、並びに、外交政策活動についての協議が行われ、建設的な政策策定のため、外務省の指導の下で政治委員会構成員が国内外政策を用意するよう任務が課された。
■ その後、より良き次の世代育成のため、宗教・近代教育における諸問題、及び、教員や学生が直面する諸問題の解決に向けた協議が行われ、必要な決定がなされた。
(出所)ターリバーン暫定政権発出のダリー語声明を元に訳出。
評価
まずもって、今次閣議に関しては、ターリバーン暫定政権のアーホンドザーダ最高指導者が、南部カンダハール州において主宰した点が特筆される。南部の要衝カンダハールは、現在のアフガニスタンの原型となるドゥッラーニー朝(1747~1973年)が勃興した故地であり、またターリバーン運動が発祥した地でもある(カーブル遷都は、1776年にティムール・シャーによって行われた)。2021年9月のターリバーン暫定政権発足後、閣議は首都カーブルにおいてムハンマド・ハサン・アーホンド首相代行が主宰する形式で開催されてきた。その一方で、公衆の面前に姿を現さないアーホンドザーダ師は、カンダハールを活動拠点にしていると伝えられていた。最近ではターリバーン暫定政権の一部構成員がカンダハール州に移住するなどの動きも見られていた(『中東かわら版』No.25参照)。
こうした中、今次閣議は、最高指導者が主導する形で、場所をカーブルからカンダハールに移して行われたのである。これは、アーホンドザーダ師が各省庁への影響力を次第に強めていること、そしてカンダハールがターリバーン暫定政権の今後の意思決定の中心となるであろうことを示している。ターリバーン暫定政権は現下の権力基盤を固めるための重要期間を大過なく乗り切るため、アフガニスタンの伝統を重んじ独立を護るとの問題意識の下、内部の強硬派の声を汲み取りつつ批判を浴びない形での堅実な舵取りを行うだろう。日本大使館含む諸外国在外公館にとっては、今やターリバーンの活動拠点となったカンダハールとどう向き合うべきかを検討すべき段階にある。
今次閣議で協議された内容に目を移すと、ターリバーン暫定政権が事実上、実効支配勢力となったことに伴い、指導部が末端の構成員の認識を改めさせようとしているとわかる。また、同政権は、近隣諸国との経済・貿易関係、金融・財政、最近のパキスタンからの大量の帰還民への対策、外交政策、教育問題等を重視している模様である。特に、最近、アフガニスタン・パキスタン関係悪化が顕著であることから、イランとの関係強化を通じた貿易の多角化を戦略的に講じている(『中東かわら版』No.121参照)。同様に、パキスタンからの帰還民支援は、ターリバーン暫定政権にとっての喫緊の課題となっていると考えられる。
なお、今次声明はターリバーン暫定政権の公式な立場を示しているに過ぎず、アフガニスタン社会の実態をそのまま反映しているわけではない点に充分な留意が要る。同国では旧政権の国軍・警察官、検事や裁判官、女性人権活動家等の拘束や迫害が頻繁に報じられており、深刻な人権侵害が懸念されている。ロシアによるウクライナ侵攻やイスラエル・パレスチナ情勢の展開などによってアフガニスタンへの関心が薄れているが、ターリバーン暫定政権下で苦しい状況に置かれた少数民族や女性を取り巻く問題が解決されたわけではなく、日本でもアフガニスタンの政治・軍事・社会情勢や国際テロ組織の動向に相応の関心を払う必要があるだろう。
【参考】
「アフガニスタン:ターリバーン副首相代行の訪問に見るイランとの関係強化の狙い」『中東かわら版』No.121。
「アフガニスタン:パキスタンによる不法移民・難民の強制送還が本格化」『中東かわら版』NO.120。
「アフガニスタン:ターリバーン首相代行の交代を含む最近の政治情勢」『中東かわら版』No.25。
(研究主幹 青木 健太)
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