中東かわら版

№128 イスラエル・パレスチナ: 再燃したガザ戦争#7――南部での作戦の示唆と二国家構想への再注目

 2023年11月15日未明、イスラエル軍は、ガザ地区北部最大のシファー病院での作戦を開始したと発表した。同病院に突入したイスラエル軍は、敷地内外で武器や地下に続くトンネルを発見したと発表しているが、大規模な司令部施設に関する証拠はまだ発見あるいは公表されていない。なおイスラエル軍は、同病院の捜索でイスラエル人の人質2人の遺体を収容した。

 11月16日、ガラント国防相はイスラエル軍がガザ市の西部を制圧し、作戦は次の段階に入ったと述べた。翌17日にはイスラエル軍のハガリ報道官が、ハマースがいる場所であれば南部でも作戦を行うと述べた。先立つ15日、イスラエル軍はガザ南部ハーン・ユーニスの東部で住民に避難を求めるビラを配布している。19日時点では、イスラエル軍がガザ市郊外での作戦を強化した様子が見られた。

 なおイスラエル軍は、頑なに拒否していた燃料の搬入について、15日に初めて、ラファフからタンクローリー1台のガザ入りを認めた。これを踏まえて同日夜、イスラエル戦争閣議(緊急政府)は1日2台の燃料補給車の搬入を認めた。その理由についてイスラエル側は、燃料枯渇により下水処理施設が停止した場合、汚水が路上などにあふれ出して感染症が拡大し、軍の作戦に支障をきたす懸念があるためとした。

 

評価

 シファー病院占拠を当初の目標としていたイスラエル軍は、その目的を達成し、地上戦が次の段階に入ったとしている。現在イスラエル軍は、ガザ市郊外での作戦を進めており、今後南部での空爆強化あるいは地上部隊の投入がありうる。イスラエルはガザ北部の住民に南部への避難を求めたが、南部を攻撃しないとは明言していない。オルマート元首相は、ハマースの本当の司令部は南部のハーン・ユーニスの地下にあると発言している。イスラエル軍の作戦に関しては、最初にガザを南北に分断し、北部を制圧した後、南部にあるハーン・ユーニスを南部の他の地区と分断するといった見方もある。だとすればイスラエル軍のハマース殲滅作戦の最終的な戦場はハーン・ユーニスということになる。

 シファー病院について、イスラエル軍は地下にハマースの大々的な司令部設備があると主張し、その想像図を公表して病院占拠を正当化してきた。その想像図に比較すると、今のところイスラエル軍が病院内で発見した証拠は貧弱である。大規模施設が見つからない一方、停電で保育器が停止し、機械から出された新生児たちの映像が世界中に流れたことで、イスラエル軍は広報合戦で苦戦している。

 イスラエル軍は、病院であれ学校であれ、ハマースが「市民の盾」として利用するものは国際世論の非難を無視してでも攻撃・占拠し、ハマースを根絶やしにする姿勢を明確にしている。その一方、イスラエル軍は、ガザの人道危機的状況に自軍が対応している姿勢を米国や国際社会に示す必要がある。イスラエル軍のガザ攻撃により市民の死者数が1万2000人を超えた事が注目されているが、220万人の生活を維持するための燃料、水、食料、医薬品、テント、冬用の衣服の確保などが人道問題上の急務である。

 以上の状況を踏まえた今後の展望について、『ワシントン・ポスト』紙のコラムニスト、デイビッド・イグナチウスは、十数人のイスラエル軍首脳を取材した結果として、イスラエル軍がハマースを根絶させた後のガザについて考えているのは、現時点ではハマースとの関係を一切の断ち切ることだけだと報告している(11月18日)。人質解放とハマース根絶以外は眼中にないイスラエルの近視的視野を危惧する声は高まりつつあり、例えば在米ユダヤ人で民主党の上院議員ジョン・オソフ(Jon Ossof)は、ガザの人道的危機が放置された場合、それに対する反発は、今後イスラエルだけでなく米国の安全保障上の脅威になるとの懸念を表明している。イスラエル軍によってハマースが根絶されても、それ以上の新たな脅威が生まれるだろうとの見方だ。

 イスラエルと違い、米国はハマース後の統治体制に関する見解を表明し始めている。ブリンケン国務長官に加え、11月18日にはバイデン大統領が『ワシントン・ポスト』紙への投稿で、ガザ戦争後の対応策としては二国家構想による政治的解決以外に選択肢はないと主張した。戦争後、ガザで暫定的な統治が実施され、治安維持と復興作業が開始されるとしても、その後のガザ・西岸とイスラエルの長期的な関係をどうするかを決める必要がある。パレスチナ紛争を解決する方法として最も現実的な方法が二国家構想であることは間違いない。1947年のパレスチナ分割決議(決議181)から1993年の「オスロ合意」、2002年のアラブ和平イニシアチブなどの和平構想は、全て二国家構想を基盤としたものだ。

 他方で、ネタニヤフ首相はこの構想に反対してきた。同首相は「現状維持」政策を掲げて二国家構想の進展を阻止しながら、新たな提案をすることもなく、ガザを実質統治するハマースの勢力増大を放置し、それが10月7日の攻勢につながった。ハマース排除後もイスラエルが2国家構想を拒否するなら、代案を提示する必要があるが、パレスチナ、米国、EU、アラブ諸国が納得する構想を示すのは至難の業だろう。

(協力研究員 中島 勇)

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