中東かわら版

№127 イラン:革命防衛隊の動向

 2023年10月7日のハマースによる「アクサーの大洪水」作戦開始を受けて、今もイスラエル軍によるガザ地区への地上攻撃が続く中、中東域内では「イランの民兵」と呼ばれる非国家主体と米軍との間での小競り合いが継続している。こうした中、イラン・イスラーム革命防衛隊の動向が注目される。以下は、断片的なるも、最近の革命防衛隊の動向を取り纏めたものである。

 11月7日、サラーミー革命防衛隊総司令官は、シオニスト政体(注:イスラエル)は急速に衰退に向かっており、同政体を支援する米国も世界において以前のような立場を占めていないと揶揄し、両国の敗北は世界の平和と安定の源になるだろうと発言した。また、同司令官は16日、パレスチナの若者は米国とシオニスト政体を泥沼に追いやったと述べるとともに、「アクサーの大洪水」が全く予期し得なかったものであったように、どこから来るかわからない別の洪水が再び発生するだろうと警告した

 また、ハージーザーデ革命防衛隊航空宇宙軍司令官は13日、戦線の拡大に関してはレバノンは既に巻き込まれているとの認識を示すとともに、衝突の烈度は今後更に大きくなる可能性があり、イランはあらゆる状況に対応する用意があるが先行きは不透明だ、と発言した

 こうした中、11月16日付『ファールス通信』(保守系)は、ガーアーニー革命防衛隊ゴドス部隊司令官がハマースの軍事部門カッサーム部隊のムハンマド・ダイフ司令官に書簡を送ったと報じた。同書簡の中でガーアーニー司令官は、神の援助とカッサーム部隊及び抵抗勢力のムジャーヒディーン達の手によって偉大なる「アクサーの大洪水」が創造され、強奪者のシオニスト政体の衰弱と脆さを明らかにするとともに、同政体が蜘蛛の巣よりも弱いことを示したと述べた。その上で、同司令官は、「アクサーの大洪水」後、パレスチナと地域をめぐる状況はそれ以前のようには戻らないだろうとし、「抵抗の枢軸」はあなた方と団結しており、ガザとパレスチナにおいて敵の目標が達せられることはないと述べた。

 革命防衛隊幹部がこうした立場を示すのと並行して、米軍は10月26日11月8日の2度にわたって、シリア東部における革命防衛隊関係施設を自衛目的で空爆したと発表した。米国のオースティン国防長官は、これらの攻撃はシリアとイラクにおける「イランの民兵」による米国権益に対する攻撃への報復だとしている。11月10日付「国際危機管理グループ」(ICG)報告書によると、10月中旬以降、シリアやイラクにおける米国権益に対する攻撃は40件以上発生しており、これらの攻撃で米兵50人以上が負傷している。

 

評価

 現在までイランがハマースの奇襲(10月7日)に関与した確証は見つかっていないものの、シリアとイラクにおける米軍と「イランの民兵」の衝突が継続・拡大している。現時点において、双方の暗黙の了解によってこれらの衝突は低烈度に留まっているものの、偶発的な事故などにより事態がエスカレートする危険性は充分あることから一層の警戒が必要であろう。

 こうした中にあって、「イランの民兵」を水面下で支援していると憶測される革命防衛隊隊の動向が注目される。革命防衛隊の視点からすると、イスラエルによるガザ地区への攻撃はパレスチナ同胞を傷つけるものであり受け入れ難い事態だろう。一方で、別の見方をすれば、ガザでの出来事は「抑圧者-被抑圧民」の構図をイラン人民に否応なしに意識させるものであり、被抑圧民に寄り添うことを標榜するイラン体制に対する、イラン人民からの忠誠を高める好機だともいえる。イスラエルやアラブ諸国との対立を恒常的に抱えてきたイランは、「前方抑止」の考えの下、中東域内の様々な非国家主体との連携を強化してきたといわれる。ガーアーニー司令官の書簡は、従来の姿勢を改めて確認するものだといえよう。

 他方で、11月15日付『ロイター通信』は、ハーメネイー最高指導者がハマースのハニーヤ政治局長と11月初旬に会談した際、10月7日の作戦開始について事前に通知がなかったため、イランがハマースに代わり今次紛争に参戦することはないと伝えた、と報じている。この報道の真偽は定かではなく、またハマースもこれを否定する立場を示している。「抵抗の枢軸」内の戦列の乱れは、士気の低下につながりかねない。こうした中、革命防衛隊としても、ハマース支持の立場を改めて表明する必要に駆られたと見ることもできる。すなわち、今次の立場表明は従来のレトリックをなぞるものに過ぎず、イランが対イスラエル攻撃の烈度を上げるとは限らない。

 今後の焦点は、イスラエルとハマースの衝突の余波が地域に拡がるかである。既に、イスラエル北部・レバノン南部国境では交戦が見られており、イスラエル軍がシリアの国際空港を空爆し機能不全に陥れてもいる。イエメンのアンサール・アッラー(通称フーシー派)も、イスラエルを標的としたミサイル攻撃を実行していることから、地域紛争の様相を呈し始めている。現状、イランやレバノンやイスラエルや米国などの主要関係各国・主体のいずれもが戦線の拡大を望んではいないようであるため、抑制的な対応が取られる可能性はある。しかし、仮に米国が革命防衛隊ゴドス部隊やヒズブッラーの幹部を無人機攻撃で殺害したり、反対に、「イランの民兵」が米兵に多大な人的損害を及ぼすようなこととなれば、緊張は一挙にエスカレートしかねない。これらが、今後の要注目ポイントになる。

 なお、イスラエル閣僚がガザ地区への核兵器使用を仄めかした事案のように、中東での核をめぐる緊張の高まりも懸念される。イランの核開発が進めば、更なるイスラエルの反発を呼ぶと予想される。この点、イラン核合意再建に向けた交渉が進むか否かは、地域の緊張低減に向けて重要である。しかし、イラン側は、米国による革命防衛隊の外国テロ組織(FTO)指定解除を要求事項の一つとしており、現下の中東情勢に鑑みれば米国が解除に踏み切る可能性は非常に低いため、交渉は当面進展しないと予想される。

 

【参考】

「イランとハマースの関係 ――イラン・米国間衝突への波及の懸念――」『中東分析レポート』R23-08。※会員限定。

「イラン:イスラエルによるガザ地区空爆をめぐるイランの警告」『中東かわら版』No.104。

「イラン:イスラエル・パレスチナ情勢の展開を受けてハマースに寄り添う立場を表明」『中東かわら版』No.97。

(研究主幹 青木 健太)

◎本「かわら版」の許可なき複製、転送はご遠慮ください。引用の際は出典を明示して下さい。
◎各種情報、お問い合わせは中東調査会 HP をご覧下さい。URL:https://www.meij.or.jp/

| |


PAGE
TOP