中東かわら版

№126 エジプト:イスラエルとのガスパイプラインの操業再開

 2023年11月14日、米石油会社「シェブロン」は、ガザ情勢悪化を理由に10月10日より停止中であった、イスラエル・エジプト間の東地中海ガスパイプライン(EMG)の操業を再開したことを発表した。EMGは、イスラエル南部の町アシュケロン(ガザ地区の北約10キロメートル)とエジプト・シナイ半島の町アリーシュを結ぶ海底パイプラインである。また、前日13日には南部沿岸のタマル・ガス田の生産再開も発表し、生産活動が数日以内に全面稼働する見通しである。  

 イスラエルは近年ガス田開発に成功し、生産量を飛躍的に増加させた。イスラエル産ガスは、同国の主力電源であるガス火力発電所に供給される他、エジプト及びヨルダンにもガスパイプラインで輸送されている。そして、エジプトの液化天然ガス(LNG)施設で液化された後、欧州にも輸出される計画である。

 

評価

 イスラエル・エジプトの天然ガス動向は、エネルギー分野においてガザ情勢悪化の影響を最も受けてきた。特に、エジプトはイスラエル産ガス輸入の減少に、国内ガス需要の増加も相まって、ガス不足に直面した。これにより、産業用ガスの供給制限や一部地域での計画停電を余儀なくされた。また、ガス輸出分も確保できなくなっている。

 今般イスラエルのガス生産・輸送が再開したものの、エジプトのガス供給国としての地位は揺らぎ始めている。欧州が同年2月のロシアによるウクライナ侵攻を機に、エネルギー面でのロシア依存の脱却を試みる中、地中海を挟んで隣接するエジプトは、代替調達先の1つとして期待されていた。2022年、エジプトの主なガス輸出先はトルコやスペイン、フランス、イタリアといった欧州諸国であった。

 この先、エジプトのガス輸出の行方が注目される。イタリア炭化水素公社「エニ」によれば、イスラエル産ガスの安定供給と冬季時の発電用ガス消費の抑制により、エジプトのLNG輸出は遅くとも来年1月に再開する見通しである。他方、2022年の輸出水準まで回復するのに時間を要することが予想される。こうした状況下、ガザでの戦闘がイスラエルのガス動向に再び影響を及ぼす事態となれば、エジプトのガス輸出の再開は更に遅れ、ガス収入を拡大させる好機が中・長期的に失われるだろう。

 

【参考】

「エジプト:イスラエルからのガスパイプラインの停止」『中東かわら版』No.99。

(主任研究員 高橋 雅英)

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