中東かわら版

№125 アルジェリア:次期大統領選挙を見据えた新首相の任命

 2023年11月11日、タブーン大統領はベンアブドゥルラフマーン首相を解任し、新首相にナディール・ラルバーウィー大統領府官房長官を任命した。

 ラルバーウィー新首相は1949年に北東部テベッサ県で生まれ、大学卒業後にハンドボール代表選手や弁護士として活躍した後、1990年代初めに外務省に入省した。同省で国際経済関係局長や駐エジプト大使、アラブ連盟常駐代表などを歴任し、2021年9月に国連常駐代表に着任した後、今年3月より大統領府官房長官を務めてきた。

 

評価

 タブーン大統領が側近のラルバーウィー官房長官を新首相に任命した背景には、次期大統領選挙を見据えた支持基盤の構築と、西サハラ政策の推進を図る狙いがあると考えられる。解任されたベンアブドゥルラフマーン前首相(任期2021年6月~2023年11月)は、タブーン政権下で元中央銀行総裁や財務相を務め、同政権の経済政策を一貫して担ってきた。彼の任期中、アルジェリア経済はCOVID-19の経済的影響が徐々に緩和され、ウクライナ危機に伴う資源価格の高騰が石油・天然ガス産業に活況をもたらした。こうして経済的課題が一段落したことから、タブーン大統領は再選という政治的目標に向けて、忠誠心の強い人物を政権の意思決定に関わる要職に起用し始めたのであろう。

 また、ラルバーウィー新首相は国連常駐代表時に国際社会に対し、西サハラ領有権問題の重要性を訴えてきた人物である。西サハラ問題をめぐり、アルジェリアは2021年8月にモロッコと断交し、同年11月よりモロッコへのガス供給を停止するなど、モロッコとの対決姿勢を堅持している。西サハラ情勢が緊迫化する状況下、今般のラルバーウィー首相登用により、タブーン政権による同問題への関与が更に高まると予想される。

 タブーン大統領は現時点で次期大統領選挙に出馬を表明していないものの、この先、立候補を決断すると考えられる。タブーン大統領が出馬した場合、政治動向に影響力を持つ軍部との良好な関係や、2019年に拡大した反政府デモの鎮静化、有力な対抗馬の不在を踏まえると、再選の可能性は高い。一方、今年78歳を迎える高齢のタブーン大統領が2024年から1期5年の任務を全うできるのかという健康面への懸念は強まるだろう。

 

【参考】

「モロッコ:西サハラ地域の町への砲撃」『中東トピックス』T23-07。※会員限定。

(主任研究員 高橋 雅英)

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