中東かわら版

№123 イスラエル・パレスチナ:再燃したガザ戦争#6――山場を迎えつつある北部での戦闘

 2023年11月11日、ガザ北部にあるシーファ病院幹部は、同病院が発電機の燃料と電気を失って機能を停止したと述べた。同病院はガザ北部の最大規模の病院で、イスラエル軍は10日にその周囲に進出したと発表していた。11日、イスラエル軍は同病院が戦闘地域内にあるとして、スタッフ・患者・避難民に退去を求めた。報道によればイスラエル軍はガザ北部で計4つの病院を包囲しておりシーファ病院への攻撃があったとの報道もあるが、イスラエル軍はこれを否定している。イスラエル軍は、戦闘開始当初から同病院をハマース戦闘員が利用し、地下にハマースの重要施設があると主張している。

 ガザ住民の被害増加を受けて、欧米諸国は戦闘の一時停止あるいは停戦を求めているが、イスラエルは人質解放がない限り戦闘停止はないとの立場を変えていない。8日に東京で開催されたG7外相会合は、イスラエル軍とハマースによる戦闘の「人道的休止」の重要性で一致した。こうした国際的な圧力もあってかイスラエル軍は、9日から北部での数時間の戦闘停止を実施し、北部に残留する市民に南部への退避を促している。この結果、この数日で10万人近くの住民が南に避難した模様である。イスラエルのガザ攻撃に対する国際世論の非難の動きはさらに強まり、ロンドン、ニューヨークなどで大規模な抗議集会が開催されている。11日には、サウジで開催されたアラブ連盟・OIC(イスラーム協力機構)合同会議が、イスラエルのガザ攻撃を戦争犯罪だと非難した。米国のブリンケン国務長官は、11月初旬の中東歴訪の頃から、「ハマース後」のガザ統治に関する米国側の考え方を度々言及してきた。同長官は8日に東京で行った会見では、米国が考える今後のガザ統治に関する議論の中に含まれるべき要素として、ガザ住民の追放はないこと、ガザがテロ行為や攻撃の基地として使用されないこと、ガザ再占領はないこと、ガザ封鎖はないこと、ガザと西岸の領土の削減はないことなどを列挙した。また同長官は、維持可能な平和を構築すること、ガザ統治についてパレスチナ人の意見と希望が含まれること、パレスチナ自治政府の下で、統一された西岸とガザ統治が行われることなど今後の議論の枠組みについても言及した。こうした米国の考え方に対してパレスチナ自治政府のアッバース大統領は、2国家構想の実現に米国が真剣であるなら、ガザ統治を担う用意があるとした。他方、ネタニヤフ首相は、ガザの治安維持は無期限あるいは一定期間イスラエル軍が担い、国際軍などの配備は認めないと発言している。

 

評価

 ガザ北部での地上戦は山場を迎えつつある。イスラエル軍は、発電用燃料のガザ搬入を阻止しつつ、病院をハマースが利用し、地下に重要施設を建設していると主張してきた。この立場は一貫しており、その結果、病院の発電機は燃料切れにより停止した。また同軍は、シーファ病院をはじめガザ北部の複数の病院付近まで進出した。同軍は病院のスタッフ・患者・避難民の退避を求めているが、実現するかどうかは不透明である。同軍としては、ハマースが置いた「人間の盾」を排除しない限り、スタッフ・患者・避難民を巻き込みながらハマースの主要施設を攻撃することになり、激しい国際的非難にさらされることになる。

 約100万人に近い住民らが戦闘を避けて南に避難したが、彼らの環境は悲惨で、忍耐の限界に近づきつつある。避難所、食料、水、医薬品、トイレの絶対的不足などに避難民は疲れ果てている。ラファフ経由で搬入される支援物資はまったく足りていない。こうした中で、住民らがハマースに対して不満や怒りを表明する出来事が増加していると報道されている。住民の生活環境が改善されない場合、大規模で深刻な衛生問題に加えて、困窮した住民の間での争いや援助物資の奪い合いなどが起きることさえ懸念される事態になりつつある。またすでに雨季に入っており、雨が降ることになれば状況はさらに悪化する。

 こうした人道的危機を打開する外交的な動きは、まだ結果を出せていない。停戦どころか一時的な戦闘停止も部分的にしか達成されていない。すでにイスラエルに対する非難だけでなく、イスラエルの攻撃を一時的にでも停止させられない米国の威信低下が中東・イスラーム諸国などで起きつつある。ガザ戦争は、今回も国際社会がイスラエル軍の過剰な軍事力行使をどこで静止できるかが焦点になりつつある。1200人の市民を殺害され、240人近くの人質を取られたイスラエルは国際的な圧力に容易には屈しないだろうが、その頑なな態度は親イスラエル的立場を取る欧米諸国社会での支持をさらに損なうことになるだろう。

 なおイスラエルは10日、検死作業の結果として10月7日に殺害されたイスラエル市民の人数を1400人から1200人に修正した。一方、自軍が殺害したハマース戦闘員数を1000人から1500人に上方修正した。

 「ハマース後」のガザ統治をめぐる議論は11月初旬から開始された。現時点では米国、イスラエル、パレスチナ、アラブ諸国などが夫々の立場を表明している段階だが、今後ガザ戦争の終結が視野に入るに従い、本格的な議論が開始される公算が高い。現時点で確かなのは、バイデン政権がネタニヤフ首相の長年の西岸・ガザ政策に真正面から反対する立場を表明していることである。10月7日に多数のイスラエル市民が虐殺されたことで、バイデン政権はイスラエルと共に立つ姿勢を鮮明に打ち出したが、それはイスラエル国民に対しての姿勢であってネタニヤフ政権に対してではないかもしれない。

(協力研究員 中島 勇)

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