№121 アフガニスタン:ターリバーン副首相代行の訪問に見るイランとの関係強化の狙い
2023年11月5~7日、ターリバーンのアブドゥルガニー・バラーダル経済担当副首相代行がイランを訪問し、同国の要人と会談した。同副首相代行が会談したのは、モフベル第一副大統領、アフマディヤーン国家最高安全保障評議会書記、アブドゥルラヒヤーン外相、ヴァヒーディー内相、ニークバフト農業ジハード相、メフラービヤーン・エネルギー相等である。これらの会談において、双方は、特に経済・貿易分野での二国間関係強化、ガザ情勢、水資源管理、麻薬対策等について協議した。
7日、経済担当副大統領府、及び、ムジャーヒド報道官は今次イラン訪問で協議された重要事項を発表した。その要旨は以下の通りである。
*チャーバハール港(注:イラン南東部の港)を経由したアフガニスタン輸出入の増加。
*輸出入の簡便化。
*ワハーン回廊(注:アフガニスタン北東部に位置する回廊)を経由したイランと中国との連結、及び同計画の実行とフォローアップのための特別チームの設置。
*アフガニスタンを経由したイランとウズベキスタンの連結、及び同ルートとワハーン回廊を結ぶ鉄道の敷設。
*カンダハール州(注:アフガニスタン南部の州)までの鉄道の敷設に向けた双方の意見合意。
*麻薬の生産・密輸の禁止対策、及びアフガニスタン農民の代替作物獲得に向けた共同努力。
*(アフガニスタンの)イランとの税関の24時間営業。
*双方からの土地税の免除。
*イランとの貿易バランスの均衡、及びそれに向けた実行段階の設定。
*アフガニスタンからのいくつかの輸出品目への特恵関税の適用。
*アフガニスタン難民が直面する課題及びその他の課題の解決のための合同委員会の設置。
評価
アフガニスタンとイランの関係は歴史を通じて紆余曲折を経ているが、最近では、2023年5月に両国警備隊が衝突し死傷者が発生した他、ヘルマンド川の水利権を巡って緊張が高まるなど全体として悪化傾向にあった(『中東かわら版』No.30参照)。こうした中にあって、今回、アフガニスタンがイランとの関係改善をアピールする背景には、東の隣国パキスタンとの関係が著しく悪化していることがあると考えるのが自然である。パキスタンは本年10月より、アフガニスタンからの不法移民・難民の取締りを厳格化しており、退去期日の11月1日前後より大量の移民・難民がパキスタン領からアフガニスタン領に移動している(『中東かわら版』No.120参照)。こうした現状を踏まえると、アフガニスタン・パキスタン関係は、今後さらに悪化する可能性がある。陸封国アフガニスタンが外洋に出る最短ルートは、イランを経由してチャーバハール港に向かうか、パキスタンを経由してカラチ港もしくはグワーダル港に向かうかのいずれかのルートである。パキスタンとの関係がこじれている今、アフガニスタンとしてはリスクヘッジ策としてイランとの関係を重視しているのだろう。今次訪問の成果としてチャーバハール港経由での貿易の拡大が第一に挙げられている点は、アフガニスタンにとってイラン経由での貿易ルートの開拓の重要性を示している。
もっとも、こうした理由の他にも、両国間には協議すべき課題が多い。外交・安全保障分野では、2021年8月にアフガニスタン駐留米軍が完全撤退した中で、地域の安全保障を如何に確保するかは共通する課題である。上述のヘルマンド川の水利権問題も、両国間の重要な外交課題であろう。また、イランは大量のアフガニスタン移民・難民を受け入れており、パキスタンの陰に隠れて目立たないものの、不法移民・難民の強制送還措置を恒常的に行っている。アフガニスタン側としては、自国の難民の処遇も大きな争点だったと考えられる。
一方のイランとしても、イスラエル軍がガザ地区への攻撃を続ける中で、ムスリム諸国との連携を重視しており、ターリバーンからの理解と協力を得る必要もあろう。実際、11月5日付『IRNA通信』(イラン国営通信)は、イランがターリバーンと協力してイスラエルの情報機関モサドの代理人3人(イラン国籍保持者)を、アフガニスタンからイランに向けて自爆型ドローンを発射しようとした嫌疑で、両国間の山間部にて拘束したと報じている。イランとしては、イスラエルからの脅威を念頭に、治安面でターリバーンからの協力を得たいとの考えもあろう。もっとも、ターリバーン指導部は、パキスタンを含む外国に対する攻撃を違法とする法令を配下の戦闘員に発出しているといわれる。このため、ターリバーンは、パレスチナ人民の自己防衛の権利を支持する声明を発出しているものの、レバノンやイエメンの非国家主体のように、対イスラエル戦に越境して参加する可能性は低いだろう。
【参考】
「アフガニスタン:パキスタン政府がアフガニスタン不法移民の国外退去方針を発表」『中東かわら版』No.91。
「アフガニスタン・イラン:両国国境警備隊が衝突、複数名が死傷」『中東かわら版』No.30。
(研究主幹 青木 健太)
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